BIMモデル事業・連携事業 検証結果報告書から読む今後の設備施工管理

業界・キャリア働き方

建設DXが盛んに叫ばれている昨今です。建築設備の施工管理で言うとTFASやRebroを使った3D検討や自動計算・数量拾いが身近な例であるかと思います。ただ建築を含めた全体の計画でBIMを実践している現場が少なかったため業界全体としてはあまり身近に感じていませんでした。

しかし実は続々と計画時からBIMを取り入れて成果を収めている現場はいくつも出てきています。国土交通省のHPに「令和2年度 BIMモデル事業・連携事業 検証結果報告書」が掲載されており、そのプレゼン資料を見ると近い将来の施工管理が見えてきます。

ここでは「令和2年度 BIMモデル事業・連携事業 検証結果報告書」から見た建築設備施工管理の在り方について私見を述べていきます。

こんな人におすすめ

  • 設備・建築問わず建設現場の施工管理に従事している人
  • 業界の展望が気になっている人
  • 最新のBIMについて知りたい人

DXとは

DXとはDigital Transformationの略称です。

定義は「進化したデジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革すること」

つまりただのIT活用ではありません。デジタル技術を我々の行動様式に浸透させ、当たり前のようにデジタルがそこに溶け込んで存在していることを意味します。

建設業でのDX

建設業においてもDXによって業務そのもの、組織、風土を変革することを目指し、各企業も積極的にデジタル技術の開発を行っています。

近年では国土交通省も積極的にDXに取り組んでいます。2019年に「建築BIM推進会議」、2021年4月からは「インフラDX 総合推進室」を発足し、DX を推進する体制を構築しました。(国土交通省 インフラ分野のDX:https://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000073.html

こういったデジタル技術というものは民間主導で進んでいくのがセオリーですが、建設業の現在においてもここにきて官民一体となって進んでいるようです。

BIMとは

建設業におけるDX実現のためのキーワード、それがBIMです。(土木分野ではCIMというものがあります。)

BIMとはBuilding Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)の略称です。空調・衛生設備で言うとT-FASやRebroなどの3DCADを用いた施工計画をイメージするかと思います。

施工管理にとって3Dモデリングを利用した納まり検討は見慣れたものになりました。しかし注意をしていただきたいのは3Dモデリング=BIMではありません。3DモデリングはあくまでBIMのもつ機能の1つだという認識をしましょう。

BIMのイメージ プロジェクト関係各社の業務をデータベース化する

1つの建築計画を行うにあたっても様々な情報を用います。施工計画、構造計算、省エネ計算、維持管理、意匠表現等、それぞれの分野において個別検討していた情報を同時並行的にインプットすることで、建設プロジェクトをデータベース化。情報に一貫性を持たせることで相互運用を可能とします。

これは事業者にとって大変メリットで、設計段階でLCM(ライフサイクルマネジメント)やFM(ファシリティーマネジメント)を合理的に計画し意思決定を早めることが可能となります。

施工に関しても事前に物事が決定することによって早期の施工体制構築が図れるため効率よく施工を進めることができるようになります。

こうしてBIMによる情報活用により建設プロジェクト全体をフロントローディングし、大幅な効率化が期待されているのです。BIMは新しいソフトウェアに移行する程度の変化でなく、従来の建築の定義を一変させる可能性を持っています。

BIMの現在地

ここまでで何となくBIMの活用による建設業界のDXの現状が理解できたでしょうか?ここで少し具体的な事例を紹介します。

国土交通省のHPに「令和2年度 BIMモデル事業・連携事業 検証結果報告書」が掲載されており、その概要・報告書・プレゼン資料を見ることができます。(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_fr_000119.html

多くの企業が参加していますので興味のあるどれかを見ていただきたいのですが、頻出するワードをいくつか紹介すると

フロントローディング

維持管理(LCM)

積算・FM

モデリング

このようなものが挙げられます。各社毎に着目するポイントは異なるものの、各情報の変換および相互運用をどのように行ったか、そしてどんな課題があるか?まとめられています。お時間のある時に是非ご覧になって下さい。

施工技術コンサルタントの登場

上記の「令和2年度 BIMモデル事業・連携事業 検証結果報告書」の中で施工管理をする立場から気になるワードを見つけたので紹介します。

新菱冷熱工業での取り組みの中で「施工技術コンサルタント」という言葉が出ています。

いくらフロントローディングを行うとは言え、現状の人員配置では設計の人間だけで細かい施工の計画を反映させるのは困難です。

新菱冷熱工業の報告書では施工に熟知したゼネコン・サブコンが上流工程に入り、設計段階で施工・専門技術提案を行う事で以下のような効果を狙ったとしています。

施工技術コンサルタントの狙い

  • 合理的な設計の実現
  • 施工段階へ持ち越される未決・不確定事項を減少
  • 工期の遅延や設計変更により生じるリスクを低減
  • 施工計画の検討や施工図作成を前倒しで実施
  • 工事着手期間の短縮やコストを低減

特に設計と施工が分離発注となっているプロジェクトにおいては施工技術コンサルタントが必要となり、設計と施工を繋いで全体を最適化する役割が求められます。

一方フロントローディングを行う事によって設計者の負担が増えたり、施主にも調整力が求められることになります。場合よっては海外の建設プロジェクトで見られるようになPMO(Project Man agement Office )というコンサルタントを含むプロジェクトメンバー全体の業務を調整する役割を果す職能が必要になってくると報告書では提言しています。

施工技術コンサルタントを生かすには

  • 特に設計・施工分離発注で採用
  • 設計、施工で標準化した書式を用いる必要
  • 施主側にも調整力が求められる
  • 必要に応じてプロジェクトの全体調整役が必要

施工技術コンサルタントの役割

新菱冷熱工業のモデル事業において、施工技術コンサルタントは基本設計の成果物に対して以下の業務を行ったとしています。

  1. 設備の仕様検討
  2. 納まり調整(建築と設備・異なる設備間)
  3. 施工計画及び施工BIM作成

設計図の整合性検証の他、配管ユニット化のための鉄骨追加、ハト小屋・PS・地中梁検討などを事前に反映することで実施設計・施工へのスムーズな引き継ぎを行います。

施工技術コンサルタントが設計段階で施主ニーズの把握と設計意図の理解を行い、様々な検討・提案をすることで同時に施主にもメリットがあるとしてます。

施主のメリット

  • 施工者目線での提案による気づき
  • 基本設計の完成度向上
  • 施工期間の短縮に期待

最終評価については実施設計や施工の結果を見てからとしており、今後も設計ワークフローに合わせた調整を図っていくとしています。

今後の課題

新菱冷熱工業はBIMを利用した施工技術コンサルタントを行った立場から、BIMのメリット・デメリットを以下のように挙げています。

BIMのメリット・デメリット

  • BIM導入による業務量の増加(データ入力・2D図面)
  • 計算やシミュレーションの工数削減(設備設計者)
  • 納まり検討の簡易化(設備設計者)
  • 拾い作業工数の大幅削減(積算技術者)

これらを踏まえ今後の課題としては設計業務の改革が必要だと提言しています。

必要な設計業務改革

  • 設計成果物の見直し(BIMデータ納品)
  • 設計ワークフローの改革(BIMデータ作成に最適化)
  • BIM実行計画書(BEP)の作成支援

BIMの普及により建設プロジェクトの大幅な改革が進むと予想される今後ですが、今までの業務の取り組み方、各企業の関わり方は大きな変化を求められると思います。

予想する設備施工管理の未来

いかがでしたでしょうか?BIMの登場で変わりゆく建設業界と施工技術コンサルタントの登場について紹介してきました。

ここからは私見になりますが、今後の展望について少し述べさせていただきます。

施工会社は2分化されていく

人手不足・継承者不足によりDXに舵を切らざるを得なくなった建設業界。フロントローディングによる効率化・工期短縮を目指し施工がプロジェクトの上流工程に積極的に入って行くケースが増えてくるのだと思います。

施工技術コンサルタントの登場により、最終的には施工会社が現場乗り込み時に行っていた設計図の整合確認やVE提案などの設計変更に関わる業務が上流側で解決済となってくるものが増えることでしょう。

そうすると何が起きるか?私は施工会社は以下の2つの種類に分かれていくと考えます。

1.上流からプロジェクトに関わり技術提案を行うマネジメント系

2.技術提案の余地が少なくなった現場を納める従来の施工系

特命で施工を受注できるようであればプロジェクト上流から技術提案込で関わっていくことはできると思いますのでそういった会社は1に分類します。

施工会社の利益構造が変わる

代理人をやられている方は分かると思いますが、現場の利益は現場変更の過程で施工に有利な方向で折衝することで生まれるものが大きいです。それらがBIMと施工技術コンサルタントによって上流側で消化されてしまうことで従来の施工会社は効率的な現場運営のみでしか利益を生むことができなくなります。

今後の現場利益の変移予想をイメージにしてみました。

施工技術コンサルが上流側で効率化を図ります。お金の出どころは今まで現場で検討してきたVE提案や設計変更での施工会社の利益。

事業主はBIMによる効率化によって全体の費用が抑えられるため、浮いた費用は設計者の負担増額分へ割り当てることが出来ます。

施工会社はVEと設計変更で出ていた利益が無くなる(減少する)ので現場運営でしか利益を出せなくなります。つまり少しでも失敗や手直しが出てきた瞬間に赤字に陥ります。補填する軍資金が無いのです。

施工会社の今後について

ではそうなった場合に従来の施工会社は何をするべきか?現場を徹底的に効率化するしかありません。施工技術のDXです。

今でも建築工事においては3Dプリンタ・自動背筋結束機・自動掃除ロボット・ドローンの活用など少しずつデジタル技術の活用が始まっています。設備工事においてはどんな事が可能になるでしょうか?

CheXやスパイダープラス社による施工管理業務の効率化は進んでいますが、作業自体に関してはまだ目を見張るものは出てきていません。ここからどんな進展を見せるか?

これからの時代は特命受注が可能な技術力・施工能力を持ち合わせる会社、一足飛びに効率化できる手法をいち早く取り入れた会社が生き残り、対応できない会社は淘汰されていくような気がします。

最後に

BIM・DXで建設業界は大きく変わり、効率化され、施工管理の労働環境も少しずつ改善していくでしょう。しかし世の中の変化にどう対応していくか?施工会社のみならず、そこに従事する一人一人が準備をしておかないとより激しくなる競争社会で生き残っていくことはできません。

今後起こりうる変化の波に打ち勝つにはより一層の創意工夫や努力をし続けるしかないのだと思います。