【後編】とある設備施工管理の転職記

業界・キャリア

退職日まで前職で働いていた私ですが、いよいよ新しい会社でのスタートです。表面だけ見ると転職前後で大まかにこのような変化がありました。

比較項目転職前転職後
平均勤務時間7時半~20時8時半~17時半
平均時間外労働30~80時間0~20時間
最大時間外労働300時間80時間
休暇日曜±人員配置による土日祝日は確実

これ以外にも様々な変化がありました。設備の施工管理として働いて成果を出すという点では変わらないものの、働き方や物事の捉え方は大きく変わりました。

ここでは転職前後でどういった変化があったのか?一般的なサブコンと設備工事を1つの事業として抱えている大手企業ではどんな違いがあるか?という事について紹介します。

※ゼネコンの設備担当のような働き方をイメージすると分かりやすいかもしれません。

こんな人におすすめ

  • 施工管理からの転職を考えている
  • 施工管理という仕事を辞めたい
  • 今後のキャリアについて悩んでいる
  • 人の転職後のエピソードを聞いてみたい

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カルチャーショック

最初に入社してみて最初に感じたことをいくつか紹介します。現場で管理をするという点は同じなのですが、環境が変わるだけでこんなに違うものかとカルチャーショックを受けた事例です。

日が明るいうちに帰る

定時は17時半ですが17時頃から雑談ばかりになってみんなそわそわしています。そして定時になるとあっというまに退社。残業しない世界がここにはありました。

おおよそ8割は定時に退社し、1割は19時までに。もう1割は20時といった感じです。なお部長は15時にはすでに居ないことも・・・。

土曜休みに戸惑う

配属になって最初の土曜日。休んでいいと言われたものの、絶対に試されているのだと思っていました。

当日朝はギリギリまで悩みました。出社はしませんでしたが月曜日が恐ろしくなりました。(何事もありませんでしたが)

休ませないと上司の管理責任が問われるので、残業含めてこのあたりも面接時に確認した通りだと実感しました。

土曜・祝日に強制的に休める世界がここにありました。

会議は就業時間中に

前職では現場第一ですので、月一の工事部会も19時ごろからスタートでした。現職では終業時間内に行います。

給料が発生する時間帯に非生産的な社内会議をする感覚は最初は慣れませんでした。

組合活動が盛ん

前職では労働組合の役員以外は工事部員ではなかなか活動に参加ができませんでした。(そんなことより現場が大事!)

しかし現職では全員参加が当たり前。中には組合の専従者もいて、社員から徴収する組合活動費から給料を得ている人もいます。

この人たちは会社との交渉を一手に引き受けると同時に社内での顔がとても広くなるので出世コースに乗るには組合役員になる事が必須とも言われています。

春闘なんてものが世にはありますが、シュプレヒコールなんて久々にやりましたね・・・。テレビの中の話だと思っていた世界がここにありました。

しかし労働組合がここまで土台を作ってきてくれたからこそ、今の恵まれた働き方ができるという点には大いに感謝しています。

<カルチャーショックだったことまとめ>

比較項目転職前転職後
残業日常(裁量次第)残業は悪
休暇日曜±人員配置による土日祝日は確実
振替休日も絶対
工事部会議19時頃から就業時間中
労働組合可能な人だけ全員参加

組織について

組合が機能し、残業無し、休暇もあたりまえ、福利厚生も充実。ではなぜこれが成立するのか?組織としての在り方に大きな差があるのだと思います。

前職では個人の集合体が会社を形作っている印象でしたが、現職では組織ありきで個人はあくまでそのパーツの1つといった印象です。

転職前(左)と転職後(右)の組織イメージ

それぞれの会社のタイプによって長所・短所はあると思いますので個人の意見は割愛しますが、仕事への取り組み方に様々な違いが出てきます。

個人の在り方の違い

転職後私が仕事を(現職にとって)高度にやり過ぎて言われた言葉を今でも覚えています。

あなたにしかできないような仕事をしないでくれ

これも一理あります。転職前は案件ごとの「個別の最適」を目指して業務に取り組んでいました。しかしこの場合仕事の成果が個人の力量に偏ったり、それこそ過酷な労働環境に繋がる可能性があります。

転職後はというと、「全体最適」で仕事をします。客先へも80点、社員にとっても80点。組織全体でカバーしきれないレベルの仕事をしようとするとストップがかかります。

「前の担当者はここまでやってくれた。」これを言わせないようにしています。

内向きの仕事が多い

転職後は現場での打ち合わせや管理そのものより、そこであった重要事項を社内で水平展開する方が重要とされています。

すぐに会社に情報を上げて必要によってはマニュアルをすぐに作成。担当者ごとの判断に依存させないようにしています。

そのため水平展開用の社内プレゼン、報告書の作成、教育プログラムなどの業務が非常に多いと感じました。

評価の違い

転職前は現場の利益を実行予算よりいくら改善したか?というのが工事部員の評価でした。(当然品質も)

転職後ではそれも1つの基準にはなりますが、それ以上に

  • ノウハウをどれだけ水平展開するか?
  • 周囲のフォローをどれだけやったか?
  • 社内業務の改善をいかにやったか?
  • いかにミスが少ないか?

こういったことが重視されます。現場や個人の役割は回して当たり前、だそうです。

過当競争はしない

ここまでで疑問に思った方もいると思います。そんなことで会社が成り立つのかと。

実は現職は40年ほど前からとあるジャンルに特化した体制をとっています。それが今でも大きなシェアを握っています。多くの一般的な設備工事の需要の中では過当競争になってしまうので、常に新たな需要を生み出して優位性を確保するか?ということに注力しています。

工事1つ1つに力を注ぐことも大事なのですが、それよりも上流側である設計開発・営業が上手く回っている会社は強いというのを転職してから実感しました。

<組織についてのまとめ>

比較項目転職前転職後
個人の裁量有り無し
仕事の取組み個別最適全体最適
仕事の方向社外向け社内向け
仕事の評価現場利益社内教育
業務改善
市場の立ち位置過当競争優位性保持

キャリアプランについて

前職では順当にいけば入社6年目で主任、10年目で係長というようなキャリアが主流でした。基本的には一般職であれ全員肩書がつきます。中途入社は当然リセットして肩書無しからのスタートとなりました。

出世について

全ての大手企業に当てはまるか分かりませんが、現職では約8割弱の人が肩書き無しとなっています。主任ですら40歳になってからという人も中にはいます。課長なんて雲の上の存在・・・。大手企業怖い。

ある程度の規模の会社であればどこも似たような話かもしれませんが、さらに部長職以上になるとポストオフに合わせて子会社や関係団体への・・(おっと誰か来たようだ・・・)

異動について

前職では異動は多くありませんでした。現場に不適任⇒内勤のような印象。また優秀であれば余計に工事からは外せないといった感じです。他支店に行く人は派閥争いに巻き込まれる人。

現職では総合職に限っていえば関係ありません。どんなに工事で優秀だろうがジョブローテーション優先です。むしろ他部署から欲しがられる存在ということで異動が多いほど優秀な人材だと評価されます。

この辺りはまた後で紹介しますが、個人に裁量をまかせるのか、会社としてフォローする仕組みがあるのかという違いにも現れています。

<キャリアについてのまとめ>

比較項目転職前転職後
肩書きほぼ全員あり2割しかない
待遇年功序列
管理職は不遇
出世するほど
旨味が多い
異動消極的
(異動≒問題児)
積極的
(異動≒優秀)

人材について

前職も現職も高卒から大学院卒まで幅広く採用していますが、やはり大手。基本的に人材も豊富です。

優等生・・・というと逆にバカにしたような言い方かもしれませんが、そんな方が多い印象です。一部に変人や異次元級もいます。頭の回転が良すぎて宇宙人と話している気分になります。

良い意味で人材が豊富でリクルーティングの重要性を感じました。

実は打たれ弱い?

普段厳しい働き方に慣れていないのか、心の病にかかる人がそれなりにいるようです。現場の第一線で施工管理をしていた身からするとこの程度の負荷で?と思う事もしばしば。

これはただの邪推なのですがおそらく社内向けの仕事が多くて、社内に敵が多いのだと。パワハラの話もよく耳にしますし。

社外との接点機会が多い部署については社内で結束して穏やかな人間関係が構築できているようです。

意外と多かったサブコン転職組

今の部署で150名程度いますが、サブコンからの転職組は私の世代を除いても20人程いるようです。今の部署の仕組みをこの転職組の人たちが作ってきたんだそう。

雰囲気も似てくるわけですね。このあたりは転職活動の中で確認してみるのも良いと思います。

<人材についてのまとめ>

比較項目転職前転職後
人材の層個性的厚く様々だが
常識人が多い
打たれ強さ一部は
飛びぬけて図太い
打たれ弱い印象

施工管理の実務について

似たような仕事をするにも、組織が異なればアプローチの仕方も異なります。ここでは転職前と転職後の施工管理業務の違いについて紹介します。

複数現場持ちの難しさ

前職では1つの現場に常駐していましたが、現職では複数の現場を掛け持ちします。常駐現場では検討ごとを1つ1つ突き詰めて行っていましたが、複数現場を持っていると1つの事に対して時間を取っていられません。

人に任せたり、余計な仕事はどんどん断っていかないと回りません。物件の捌き方、頭の使い方が全く異なってきます。

ゼネコンの設備担当のような働き方が近いでしょうか・・。最初はこの切り替えがなかなかできませんでした。

裁量の少なさ

前職ではかなりの裁量を持って現場代理人をしていました。協力会社・メーカー・代理店の選定、予算の見直し、人員の配置、休暇の取り方、現場経費・・・まさに事業主のような仕事の仕方。

現職は組織ありきなので上記のものは一切ありません。会社が全てを決め、現場代理人は打ち合わせと増減の交渉くらいです。裁量が無いのでちょっとした駆け引きが通用しない難しさがあります。

収益の構造の違い

予算があってその中で適切に納めていくといったことは同じです。1人あたりの完成工事高もそこまで変わりません。

異なる点は会社全体で様々な事業を持っており、収益を工事に依存していません。ではなぜ工事部門があるかというと、現場業務を通じた需要の開拓、エンジニアリング能力の集積といった意味合いがあります。

なので工事のエースだった人がいきなり営業に行くということも珍しくありません。工事に依存すると社内の異動なんて出来ないですからね。

明確な役割分担と豊富なマニュアル

誰が工事を回しても組織で回すという風土なので、マニュアルが本当にしっかりしています。業務全体のフローの中で誰が何をするのか?使用する書類へのアクセスも明確で簡単。

協力会社との工事中の事細かな業務区分まで決まっています。例えば写真は誰がどの程度撮るなども・・・それに対する単価設定なども定期的に見直しています。

私が現場代理人をやっていた頃はこのあたりの整理が得意だったので転職後も生かして・・・と思っていたら手をつける所がありませんでした・・・。

高難易度な案件は個人の力

マニュアルや組織がしっかりしていても、上記で上手く回るのケースは多くても全体の8割程度です。残りの2割はどうしてもそうはいかない。それらに対してだけは個人の力量に依存します。ここは転職前後でも変わらない部分だと思います。

多くのサブコンであればこういった最前線で踏ん張っている人たちが評価されます。しかし現職ではそれらの人を評価する仕組みはありません。上席に説明できない隠れたものが多すぎるのです・・・。

マニュアル人間が担当していたら鬱になってしまうかもしれません。もっと赤字が大きかったかかもしれません。それらを見ないで仕組みの中だけで見られてしまうので、少しのミスが出世にとって命とりになります。割に合わないですよね。ここは何とかしてほしいとは思います・・・。

<施工管理業務についてのまとめ>

比較項目転職前転職後
現場の関わり方常駐非常駐複数
裁量代理人に大きな裁量一切なし
収益構造工事に依存工事以外もあり
マニュアルあやふや明確で実用的
工事部員の評価高難易度・高収益が良減点方式

充実したプライベート

現在土日祝日は基本的には休みです。検査やアフター対応があった時は振替えもできます。

転職して半年後、妻とも無事に入籍してのんびり過ごしています。

転職前に設備の現場代理人をしていた時期も多忙でありながらも充実していましたし、社会人としての基礎を作る事ができた重要な時期だったと思っています。

転職後は社内向けの仕事が増えて、これが本当に自分のためになっているのか?と自答することもあります。

しかし家族に心配をかけずに働けていますし、これはこれで良かったのだと。他の記事でも書いていますが、人生は仕事だけじゃないし他に大切なものはたくさんあります。むしろそちらの方が多くを占めています。

最後に 転職がゴールではない

ここまでで“ハッピーエンド“であれば簡単な話ですが、私もまだ30代。現役を引退するまであと30年以上あります。

昭和の時代であればこのままで良かったでしょうが、今は人生100年時代。次のキャリアも真剣に考えないといけません。

現状は上手く回っている会社ですが、それに甘んじていると次の変化の波に飲まれてしまいます。実際にとりまく環境の変化も訪れてきています。

今こうやってブログ等で発信しているのは後人へのアドバイスという事もありますが、錆びついてしまった頭の整理も兼ねています。

必ず来る次のステップを踏み出すのに準備あるのみ。いつ何が起こるか分からないからこそ様々な方向に目を向けていきたいと思います。

~おまけ 採用してくれた面接官がいなくなっていた件~

面接の際に色々話をした「現場たたき上げ」の方の下につくことを期待していましたが、入社してみると本人が異動していなくなっていました・・・。さすが大手。人事異動が早い・・。

その後1年だけ同じ部署で働く機会がありましたが、今はポストオフで出向してのんびり仕事をされているとのこと。