意外と知らないダブルナットの締め方とねじの基本
設備機器を設置するにあたって必ずといっていいほど行うダブルナットでのボルト締結。設備の施工管理として余ねじ山やマーキングの実施を確認するのが一般的だと思います。
しかし施工直後に問題はなくても、検査段階や引き渡し後の1年目点検などで緩んでいたなんていう経験はないでしょうか?
そう、実は目視だけではダブルナットの管理を行ったとは言い切れないということです。これは経験上ですが意外とダブルナットの管理方法をきちんと習う施工管理の方って少ない気がします。
国土交通省の標準仕様書を始め、メーカーの設置要領書や受注先の施工基準などにも記載が無く基準を知る機会がほとんどないのが実情だと思います。私も駆け出しの頃に職人さんから軽く教わった程度でした。
しかし調べればきちんと資料はあります。ここでは設備の施工管理が意外と知らないダブルナットの管理方法について記載していきます。ここでしっかり覚えて機器の脱落事故など起こさないよう心がけましょう。
- ダブルナットは余ねじ山とマーキング管理だけだと思っている
- そういえばきちんと教わったことがない
- 施工後にナットが緩んだ場面に遭遇したことがある
ねじが緩む理由
そもそもねじはどうして緩むのでしょうか?
ねじは締付けによってボルト軸部に発生した引張力(ボルト軸力)と被締結部材に発生した圧縮力(締付力)とにより一体化されています。
このねじ締結体に外力が作用していないときは、ボルト軸力と締結力は互いにつり合っています。この状態における両者を総称して「予張力」といいます。
締付直後にはつり合っていた予張力が何らかの原因によって低下する、これを「ねじの緩み」といいます。その原因は様々ですが、以下のようなものがあります。
- 接触部の小さな凹凸のへたり
- 座面部の被締結部材への陥没(ワッシャーの取付忘れ)
- ガスケットなどのへたり
- 接触部の微動摩耗
- 高温に加熱される
- 軸廻り回転の繰り返し
- 軸直角変移の繰り返し
- 軸方向荷重の増減
- 軸直角衝撃力の繰り返し
- 軸方向衝撃力の繰り返し
6~10はナットが回転して生じる緩みとなります。設備機器には常にねじを緩ませる力が常に働いています。機械を運転すると振動が発生します、地震や風によっても動きがありますので緩み止め措置と言うのは必須というのは分かりますね?
一方1~5については、ナットが回転しないで生じる緩みとなります。機器自体とは関係なく材料そのものだったり設置環境だったりが原因でねじを緩ませます。
正しい施工の以前にねじの緩み止めを施工・管理する以前に改めて設置環境や部材の確認を行いましょう。
ダブルナットの原理
ダブルナットはどのようにして緩み止めとなっているのでしょう?ここで少し説明します。(あくまでイメージとして把握してください)
通常のボルトとナットを締結するとき、ボルトとナットのねじ山を見てみると次のようになっています。
ボルトとナットのねじの間には隙間があります。これによってねじを締めるスムーズに入っていきますが、実際はボルトねじの下側とナットねじの上側が接触しあい、ボルトねじの上側とナットねじの下側に隙間が発生しています。
この接触している部分で摩擦力が発生し、締めこんでいくほど予張力が大きくなって締め付けられるのです。
下ナットだけを締めた段階では上記のようなシングルナットと同じ状態です。次に上ナットを締めていくとどうなるか?
上ナットを締めていけば下ナット部分で止まります。この時下ナットは上ナットによって押さえられ、接触していた部分に隙間が生じてしまいます。これによって摩擦力が減少し、締付力はなくなります。(全体としてシングルナットと同じ状態になります)
次に上ナットを固定して、下ナットを逆回転で戻します。すると下ナットのボルト再びねじ山と接触して摩擦力が発生します。下側に隙間ができて上側に押さえつける力が働いているイメージです。
このように下ナットと上ナット両方についてはめあいねじ部の隙間をなくすことで正しくロックされることになります。
補足としてハードロック工業㈱様のYOUTUBEチャンネルに解説動画があります。まだイメージが湧かないという方はご覧になってみてください。
農林水産省 土木工事施工管理基準
意外とダブルナットの施工方法を細かに記載している資料というものは少なかったりします。
公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編・電気設備工事編・建築工事編)にもダブルナットで施工せよ、とは記載してあるものの、その詳細については記載がありません。
私が今までお付き合いしてきた業界最大手・準大手のゼネコンの設備管理基準にも記載はなかったと記憶しています。
インターネットで調べれば他の方がまとめているブログなり民間の会社HPに記載があったり、それなりに調べはつきます。しかしそれらだけを流用して自社の工事に適用させるのには説得力が欠けます。
何とか公的なものでダブルナットについて言及している資料はないか?と調べたところ「農林水産省 土木工事施工管理基準」という資料に行きつきました。
以降ポイントをかいつまんで説明していきます。
2種ナットを使用する
あまりなじみがないかもしれませんが、JIS規格ではナットは1種~3種の分かれています。
一般的には「ナット」というと1種のことを指します。これは片面のみ面取りを行っているもので、締め付ける方向が決まっています。
一方農林水産省の施工管理基準ではダブルナットで使用するナットは2種ナットを2つ用いるのが基本です。ねじ山不足が見込まれる場合は2種と3種の組み合わせも可能です。
締付けの手順
被部材側を下ナット、先端側を上ナットと表現していますが、手順としては以下の通りです。
- 下ナットを締め付ける
- 上ナットを締め付ける(トルク管理を行う)
- 上ナットを固定しながら下ナットを緩め方向に回す
ポイントは手順3です。
下ナットを緩め方向に回して上ナットと突っ張るように、羽交い締めにするように締め合わせます。
文献にもよりますが、上ナットの1.5倍のトルクで2つのナットを突っ張り合わせるように締め付けることが一般的のようですが、1.1~1.3程度でも構わないという主張もあります。
農林水産省の施工管理基準にはそのトルク値について明確な規定はありません。一概には規定できないためため、とにかく覚えて欲しいのはナットを2つ締め付けた後は上ナットを固定しながら下ナットを戻すということ。これをしないとシングルナットと同じで意味がありません。
3種(ハーフナット)は下ナット(被取付け部材)側に
余ねじ山が不足する事態になったとき、上ナットを3種ナット(ハーフナット)変更して確保する。としている方もいらっしゃると思いますが、ここで1つ注意点です。
記事冒頭でも記載していますが、ねじは締付けによってボルト軸部に発生した引張力(ボルト軸力)と被締結部材に発生した圧縮力(締付力)とにより一体化されています。
この引張力を十分に発生させるためにJIS規格ではナットの高さをボルト径の80%程度としています。しかし3種ナットでは60%程度しかありません。
ダブルナットは上ナットがメインの締付力として働きます。これが3種だと引き受ける引張力が少ないため負けてしまうことになるのです。
3種ナットは必ず下ナットとして使用してください。
なお3種ナットを下側に使用する場合は薄口スパナが必要です。施工面を考慮するとつい上ナットとして使用したくなりますが、本来の効果を発揮できなくなるので注意しましょう。
1種ナットではダメなの?
施工管理基準では2種ナット同士と記載がありますが1種ナットではだめなのか?という疑問が・・・。
こちらに関しての記載はありませんが、トルク管理をする上の話であると考えます。
一般的にナットといえば1種になります。片面が平坦でもう片面が面取りをしています。2種は両面に面取りを施してあります。この使い分けをどうするかというと一般社団法人日本建設業連合会の「鉄骨工事Q&A」によると以下のような記載があります。
座金や、ナットは、規定のトルク係数値を確保するためにお互いが接する面のあらさを規定しています。また、ナットの座金との接触面は潤滑処理されています。
裏使用しますと、ナットと座金が接する面のあらさの違いで、正規使用の場合と比較し、トルク係数値に影響が生じます。その結果、共回りが発生し、導入軸力がばらつくことがあります。
なので決められた管理をする場合はナットの種類まで注意するべきで、農林水産省の施工管理基準にあっては下ナットを最初に設置する段階でのトルク管理はしていないので、下ナットに1種を用いる分には構わないのだと推測します。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
設備の施工管理をしている人にとって使用頻度が高いボルト・ナット。その仕組みについてきちんと学ぶ人は意外と少ないと感じます。
万が一ナットが緩んで機器が脱落すれば人命に関わる事態も考えられます。そうなった時に「管理不足だった」では済まされないですよね。
マーキングだけの見た目の管理で満足せず、施工要領等で基準を作って作業者を指導し、(抜き取りでも)現場で立ち会って確認を行うことを忘れずにしていきましょう。
参考資料
■農林水産省 「土木工事施工管理基準」
https://www.maff.go.jp/j/nousin/seko/kyotu_siyosyo/k_kizyun/
■ハードロック工業 「ねじ締結体のトラブル 原因と対策 ―ダブルナット編―」