設備施工管理が知っておきたいステンレスの種類と特性
「錆びに強い」「磁石にくっつかない」ステンレスと言えばそんなイメージが先行する設備の施工管理は多いのではないでしょうか?
もちろん間違っていません。しかし注意していただきたいのは、それらは数あるステンレスの特性の一つでしかないということです。
同じ「ステンレス」でも用途や使用場所を間違えると重大な品質事故につながります。ここでは支持材等1つととってもで正しいステンレスの選定を行えるよう、現場レベルで知っておいて欲しい初歩的な特性の紹介をします。
- 若手の監督で材料の種類がいまいち分かっていない
- 外部はとにかくステンレスと教わった
- 塩害地域ではステンレス厳禁だと教わった
- 塩害地域で屋外に機器を設置しているが支持材の種類に悩む
目次
ステンレスとは
ステンレスは鉄(Fe)を主成分(50%以上)とし、クロム(Cr)を10.5%以上含む錆びにくい合金のことを言います。
英語でstainless steelと言い、直訳すればステンレス鋼となります。このstainlessとは「錆びない」と言う意味ですが、厳密には「錆びにくい」という意味も含まれます。
なぜステンレスは錆びに強いのか?
錆び、というとまず鉄をイメージする人は多いでしょう。ステンレスも鉄を主成分としていますが、含まれているクロムが1つのポイントです。
鉄にクロムを添加するとクロムが酸素と結合して鋼の表面に薄い保護皮膜 (不動態皮膜)を生成します。この不動態皮膜が錆びの進行を防ぐ役割をします。またこの不動態皮膜は100万分の3mm程度のごく薄いものですが、大変強靭で、一度壊れても周囲に酸素があれば自動的に再生する機能をもっています。
鉄の表面を塗装しても、塗装に傷がついたり剥げてしまえばそこから錆(腐食)が発生します。一方ステンレスでは傷がついたとしてもクロムと大気中の酸素による不動態皮膜が瞬時(数分)に再生するので防錆効果が持続するというわけですね。
「ステンレス」にも種類がある
鉄とクロムの合金がステンレスという紹介をしました。その他にも金属の配合・製造過程によりステンレスの種類は様々です。以下には空調・衛生の一般的な工事において特に見かけるものをまとめました。
種別 | 特徴 | 代表番号 | 用途 |
---|---|---|---|
オーステナイト系 | 加工性良好・高耐食性・広温度域 塩化物応力腐食割れのおそれ | SUS304 SUS316 | 一般配管用ステンレス鋼鋼管 バンド・全ねじ・アンカー SUSダクト・SUSフレキ |
フェライト系 | 加工性良好 ・磁性有 耐応力腐食割れ性・安価 | SUS444 | 受水槽・貯湯槽 温水機器 |
二相系 | フェライトとオーステナイトのほぼ中間 耐海水性・耐応力腐食割れ性・高強度 | SUS329J4L | 受水槽(気相部) |
マルテンサイト系 | 高硬度・耐熱性 ・磁性有 | SUS410 | ビス・ポンプシャフト |
各種別の細かい専門的な部分については専門図書・文献などをご覧になってください。(記事の最後にリンクを貼っておきます。)ここでは「ステンレス」というものには種類があり、それぞれ特性があるのだということを覚えておいてください。少しだけ概要的に紹介します。
幅広く使われるオーステナイト系
SUS304を始めとするオーステナイト系ステンレスはその優れた耐食性・耐熱性・加工性からオールマイティな素材として汎用的に使用されています。製造量は日本における全ステンレス生産量の60%を越えているようです。そのため一般的に「ステンレス」というとオーステナイト系をイメージする人が多いと思います。
一般的は空調・衛生設備工事においてはダンパーの各部材・ダクト・一般配管用ステンレス鋼鋼管・バンドなどの支持材・アンカーやボルトナット等に使用されたりしています。
画像は株式会社アカギ様のカタログからの抜粋です。よく使われる全ねじや吊りバンドにもSUS304と記載しています。・・・のですがここで注意事項です。吊りバンドのカタログをよく見るとこんなことが書いています。
塩害地域の使用は避けてください。
万能なオーステナイト系ステンレスのSUS304ですが引張応力がかかった状態で塩化物イオンを含むような腐食環境にさらされると応力腐食割れを起こることがあります。塩害地域や温浴施設などで塩素を含む空気が多い場所については配慮が必要となります。
支持材やビス1つにしても現場のその部分で使用しても良いものか?確認する癖をつけると良いでしょう。見分け方は磁石に付かないことです(一般的なステンレスのイメージはこれですよね)ので、試してみてください。
SUS304よりも耐食性を高めたSUS316や表面を耐食処理した材料も存在します。現場の環境にあわせ製造メーカーともよく相談して選定するようにしたいですね。
塩化物による応力腐食割れに強いフェライト系
SUS430を始めとしたフェライト系ステンレスは耐食性や加工性も良好でオーステナイト系ステンレスよりも安価という特徴があります。
そしてもう1つ大きな特徴としてオーステナイト系ステンレスでは問題となる塩化物を含む環境下での応力腐食割れに対する抵抗が非常に高いことが挙げられます。
一般的な空調・衛生設備工事においてはステンレス製の水槽・貯湯槽・厨房機器などに用いられます。
水槽気相部にも用いられる二相系
二相系ステンレスとはオーステナイト系とフェライト系の2つの金属組織(二相)をもつステンレスで、物理的性質はフェライトとオーステナイトのほぼ中間です。
また耐海水性・耐応力腐食割れ性に優れ、そのうえ強度も高いという性質があります。
一般的な空調・衛生設備工事においてはステンレス製の受水槽の気相部に使用されたりしています。
硬度があるマルテンサイト系
SUS410を始めとしたマルテンサイト系ステンレスは炭素を含み、硬度が高く耐摩耗性に優れていることが特長です。逆に炭素を含むことによって耐食性に関してはオーステナイト系やフェライト系には劣りますが、大気中で加熱した場合の耐酸化性にも優れるため耐熱性も良好です。
使用用途としては刃物・タービンブレード・ポンプ・軸受けなどが挙げられますが、空調・衛生設備工事においてはビス類で多く見かけます。
コーススレッドやドリルビスなど強度が求められるといった点で納得です。
オーステナイト系やフェライト系と比較して耐食性が劣るので塩害地域の外部で使用する際には要注意です。ジオメット処理を施したものなど、さらに耐食性を高めた製品もあるので注文する際に確認してみるとよいでしょう。
最後に
ステンレスの種類と簡単な特長を空調・衛生設備での用途と絡めて簡単に紹介しました。
ステンレス≠磁石につかない
ステンレス≠耐食性に強くどこにでも使える
ということを理解していただけたでしょうか?とはいえ素材1つ1つの特性を理解するのはキリがありません。そんなことよりも現場で覚えなくてはいけないことは沢山あります。
余裕が出来たらご自身で理解を深めていっていただきたいですが、再度ここで強調させていただくのは自分で選定したり、協力会社さんが持ち込んだ材料が工事の仕様に合っているか確認する癖をつけていただきたいということです。
ステンレスに限らない話かもしれませんが、「本当に大丈夫かな?」「そういえばカタログに注意書きがあったかも・・」と思えるようなきっかけにしていただければと思います。
参考文献・HP
■山陽特殊製鋼株式会社:技術解説「ステンレスの基礎知識」
http://www.sanyo-steel.co.jp/technology/images/pdf/5/5_13.pdf
■ステンレス協会:ステンレスの特長と種類
https://www.jssa.gr.jp/contents/about_stainless/key_properties/types/
■日本製鉄株式会社:モノづくりの原点 科学の世界VOL.23
https://www.nipponsteel.com/company/publications/monthly-nsc/pdf/2005_12_154_13_16.pdf
■ステンレス鋼(SUS)専門情報サイトsusjis.info