施工管理は現場代理人を目指せ ~その仕事と経験するべき理由~
サブコンへ入社し、建築設備の施工管理をしている方には早いうちに現場代理人になっていただく事をおすすめしています。ただでさえ激務できついのに・・・と思われる方も多いかもしれません。しかしそれでもはるかに経験するメリットの方が大きいと断言できます。
現場代理人を経験している施工管理者とそうでないものとの間には雲泥の差があります。これは社内での評価もそうですが、転職市場においても大きな評価軸となるでしょう。
ここでは①現場代理人とは?②建築設備の現場代理人は建築の現場代理人とは何が違うか?③現場代理人を経験するべき理由などついて紹介していきます。
- これから現場配属になる
- 建築設備の施工管理になろうと考えている。興味がある。
- 建築設備の施工管理に従事している。
- 近々現場代理人になる予定
現場代理人とは
現場代理人とはとは誰の代理でしょうか?建築工事を行う際に元請と下請けとの間で請負契約を行います。この際に会社を代表者同士の名前で契約書を交わします。そしてその代表者の代わりに現場運営を行う責任者、それが現場代理人です。
建設業法19条の2にその選任について記載されており、請負元の監督員に対して意見の申出を行うことになっています。現場代理人が請負者としての代理人とすると、監督員とは請負元としての請負者(の代理人)と意見を交わす代表者ということです。
(現場代理人の選任等に関する通知)
第十九条の二 請負人は、請負契約の履行に関し工事現場に現場代理人を置く場合においては、当該現場代理人の権限に関する事項及び当該現場代理人の行為についての注文者の請負人に対する意見の申出の方法(第三項において「現場代理人に関する事項」という。)を、書面により注文者に通知しなければならない。 2 注文者は、請負契約の履行に関し工事現場に監督員を置く場合においては、当該監督員の権限に関する事項及び当該監督員の行為についての請負人の注文者に対する意見の申出の方法(第四項において「監督員に関する事項」という。)を、書面により請負人に通知しなければならない。 3 請負人は、第一項の規定による書面による通知に代えて、政令で定めるところにより、同項の注文者の承諾を得て、現場代理人に関する事項を、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて国土交通省令で定めるものにより通知することができる。この場合において、当該請負人は、当該書面による通知をしたものとみなす。 4 注文者は、第二項の規定による書面による通知に代えて、政令で定めるところにより、同項の請負人の承諾を得て、監督員に関する事項を、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて国土交通省令で定めるものにより通知することができる。この場合において、当該注文者は、当該書面による通知をしたものとみなす。 |
現場代理人の役割と業務
ではもう少し細かく見ていきましょう。現場代理人は責任者として何しているのでしょうか?品質管理?安全管理?いいえ、それらは主任技術者や安全衛生責任者の職務になります。
では何かというと、「公共工事標準請負契約約款」では次のように記載されています。
現場代理人は、この契約の履行に関し、工事現場に常駐し、その運営、取締りを行うほか、請負代金額の変更、請負代金の請求及び受領、第十二条第一項の請求の受理、同条第三項の決定及び通知並びにこの契約の解除に係る権限を除き、この契約に基づく受注者の一切の権限を行使することができる。 |
要約すると
- 現場運営のマネジメント(就業管理、役割分担、予算管理)
- 受注先との変更工事に関わる金額の折衝
とうことです。一切の権限とあるので会社によっては以下の業務
- 下請負業者の選定と金額の折衝
- 各メーカーとの金額の折衝
なども含まれてきます。現場で指示をして~というよりは事務的な職務が多いですね。
現場代理人になるためには?
現場代理人になるためには実は何も資格は必要ありません。会社が選任すれば誰でも現場代理人になることができます。主任技術者や安全衛生責任者と兼任することがほとんどですので1級管工事施工管理技士を取得することが目安となりますが、あくまで「現場の責任者」なので法的な要件は何もありません。意外だったでしょうか?
設備と建築でどう違う?
ゼネコンの現場代理人(所長)となると金額や管理する範囲、またそのほとんどは元請となるので社会的責任も大きくなります。大型現場になると数百億、職員も数十人、職方も毎日数百人となり、その規模を管理するとなると相応の経験年数と社内的な立場が必要です。
一方設備工事ではゼネコンに比べ金額も管理する範囲も小さく、ある程度の経験を積んだ若い人間でも任されることがあります。
比較項目 | ゼネコン | サブコン |
---|---|---|
請負金額 | 大きい | 小さい |
管理する範囲 | 広い | 狭い |
社会的な責任 | 重大 | 比較すれば小さい |
初めて選任される時期 | 30後半~40代(課長クラス) | 20代(係員、主任クラス) |
早いうちに現場代理人を経験するべき
おおよそ、現場代理人になる=主任技術者、安全衛生責任者を兼任することが多いはずです。その業務量は膨大なものになります。
現場の納まり検討、品質管理に安全管理。単に現場を回す、ということ以外にも金勘定、接待、事務的な書類もこなしていかないといけません。また複数人で常駐する場合にはメンバーのフォローまで入ってきます。
一般的にこういった職務というものは一般的な会社の中堅以上での役割であることが多いのではないでしょうか?
ゼネコンの現場代理人でもその規模の大きさからはやり中堅・管理職以上から経験となるケースが多いでしょう。一方設備施工管理では入社数年でこういった職務を与えられます。
これは私の主観ですが、早くして現場代理人を経験することで働くことに対する目線が全く変わります。おそらく責任から逃げ回って一担当者であり続けていたらもっと早くダメになっていたかもしれません。
現場代理人という立場は責任も業務量も膨大でしたが、大変さよりもメリットの方がより多かったと振り返ります。いち担当者と比較して権限が格段に多いです。時間の使い方、予算、人員配置、交渉・・・最初は大変でしたが代理人を複数こなすことで働き方もかなり向上したと思っています。
- 裁量が多く、自由な働き方ができる。
- 億単位の莫大な金額を動かせる。
- 人に対するマネジメント能力が身につく。
- 代表者としての交渉力が身につく。
次はそれぞれのメリットについてもう少し細かく解説します。
現場代理人のメリット① 責任も多いが、裁量も多い
現場代理人の働き方の特徴といえばその裁量の多さです。業務量は確かに多いですが、どの業務をどの順番で、誰にやってもらうか、自分で決めていいんです。変な話ですが仕事しなくてもいい日もあります。休む時に上司の判断を仰ぐ必要もありません。(報告はしましょう。就業規則は守ってくださいね)
働くことに対してメリハリができる。これが1つめのメリットになります。
現場代理人のメリット② 莫大な金額を動かす
会社が負担している社会保障費っていくらだか分かりますが?会社の非生産性部門や建屋にかかっている費用は?予算管理を行っていく上で、こういった数字に触れることもあります。
例えば現場代理人なので受注金額や予算はすぐ目にできますね。工事部員の人件費を現場から捻出している場合は
受注金額―実行予算額=会社経費(建屋・非生産部門)
となりますね。また
人件費―給料=会社が負担している社会保障費(雇用保険・厚生年金)
こういったことも見えてきます。CADオペさんなどに来てもらっているときは
派遣外注費―派遣者の給料=派遣先の経費
などなど。
こういった数字を目にすると実に手取り給料の倍以上の金額を会社が負担していたり、自分も給料少ないけど会社も大変なのだな、と認識できます。
給料分の仕事をする、というのは当たり前ですが、私は「最低限人件費分の仕事をする」という意識が芽生えました。1か月あたり自分の人件費分だけでも給料の倍くらい稼がないと会社はマイナスとなってしまうのです。
現場代理人のメリット③ 人を動かすマネジメント
限られたお金、資材、人材で現場を納めようと思ったらどうすれば効率がよいでしょうか?お金や資材は物理的なものなので増やしたいと思っても増えません。
ですが人は違います。人数に限りがあっても環境次第で役割発揮度が変わってきます。上記では自分の「人件費分の仕事をする」と述べましたが、他のメンバーにも「人件費分、それ以上の仕事を無理なく」してもらわなければいけません。
いかに手戻りなく、働きやすい環境を用意してあげられるか、それを考えるのも現場代理人の重要な仕事です。
現場代理人のメリット④ 交渉力が身に付く
一担当者でも現場打合せ等を行っているかと思いますが、現場代理人の交渉とは裏に金銭が絡んだ(しかも個人ではどうにもならない金額)ものになります。一言の重みが違います。
予算管理を任されている以上、ただ現場を納めれば終わり、というわけではいけません。言い方、タイミング、最悪の場合の保険まで考えて打ち合わせを進めないといけません。会社の代表ですから現場代理人の意見が会社としての意見でもあるのです。責任ある立場で交渉することにより、そのノウハウが磨かれていくでしょう。
経営者的な感覚が身に付く
以上のことから現場代理人を通じて
経営者的な目線で仕事をしていることに気が付きます。
勘違いしないでいただきたいのは、実際経営している方とは責任の重さは何倍も軽いこと。なにせ会社の看板に守られているからです。そしてここで問います。
貴方の言うことは会社の看板無しでも職人さんは聞いてくれますか?
損害を被った場合は自分の責任で返済できますか?
事故があった場合、職人さんの後ろにいるご家族に対してどう説明をしますか?
・・・こういったことは最悪会社が考えてくれますが、自分事として捉えて仕事をすることで働き方がガラリと変わってきます。
現場代理人業務を通じて働き方が変わる
20代という早い時期に気が付けるか、その後の人生に大きく影響してくると私は思います。業務をやっていると上限がありません。常に100点のものを出し続けるのは時間や体力が有限である以上不可能なのです。(品質、安全管理は100点ですよ?)
私の場合ですが、現場代理人という職務を通じて働き方は完全に変わりました。責任者という立場を身をもって知ることで自分を冷静に見れるようになったと思います。
仕事の全体像や人間の限界が見えるようになったため、いい意味で割り切って仕事をするようになりました。つまり圧倒的に自己満足的な仕事が減りました。
その仕事の本来の意味を考え、無駄な資料は省いたり、あるいは早めに検討したり・・・またメリハリをつけて休むことも覚えたと思います。
是非設備の施工管理をしている方には現場代理人を早い段階で務めてほしいと思います。
- 施工管理という仕事の全体像が分かりポイントが分かるようになる
- 事務書類、提案資料などには時間をかけなくなる
- 早めに検討をする習慣がつく
- メリハリのある働き方。休む時は休む
- その仕事の本来の意味を考えるようになる
まとめ
正直現場代理人になるまで、そして1つか2つ現場代理人業務をするまでが建築設備の施工管理の仕事としてはとても辛い時期になると思います。それは「建築設備の施工管理って本当にきついの?」の記事で述べた通りです。
他の職業になったとしても働く上での考え方は同じなので、早くから現場代理人業務を経験しておくことで、きっと人生の役に立っていくと思います。設備の施工管理に興味がある!という方は是非現場代理人を目指しましょう。そして今大変な思いをして施工管理をしている若手の方、心を病むまで頑張る必要はありませんが、出来るのであれば現場代理人を1度でも経験していただいてからキャリアを見直すと良いと思います。きっと違った選択ができると思います。