現場の品質管理を見える化する(その3) ~品質管理手順書の作成方法~
前回 現場の品質管理を見える化する(その2)で管理手順書を用いた品質管理の見える化について紹介しました。ここで言う見える化=品質管理手順書は施工管理用の自主検査チェックリストとは似て非なるものです。会社で標準となっているチェック書式は曖昧すぎて現場で使い物になりません。今回はその管理手順書を作成する上での具体的なポイントについて紹介します。
- 現場の品質管理をもっと楽に行いたい。
- 人によってチェック基準が曖昧であるため統一したい。
- チェック漏れが発生しないように管理したい。
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品質管理手順書を作成する目的
まず現場の品質確認を行う上での2つの”かんり”をご紹介します。
管理 | 施工管理が現場をまとめる(管理する)こと。主に安全・品質・工程に分かれる。 |
監理 | 建築士法で規定。「建築士の責任において工事を設計図書と照合し、 それが設計図書のとおりに実施されているかいないか確認すること」 |
現場は「職人が施工」をし、「施工管理者が管理」をし、「監理者が監理」をすることで品質が確保されるわけです。
この流れの中核の部分である「管理」の質をいかに上げるかということは建物全体の品質に直結します。形式的なチェックリスト、分厚すぎて誰も隅々までは読まない施工要領書、それらは現場の品質には直接貢献しません。これを見ているあなたに質問です。
品質管理をするときは何を見ていますか?
ベテラン施工管理や職人さんと同じ目線で見ていますか?
それは書類で補えていますか?
そもそも正しい施工方法を調べた事がありますか?
見る人によって正解が異なっていませんか?
品質事故に至った場合お客さんにどう説明しますか?
それらを解決する手段として品質管理項目を見える化します。
関係者が共通の認識で現場を進めていくために、チェックリストをちょっとだけ進化させます。具体例を交えて説明していきます。
形式的なチェックリストの存在
今日は実際にMD継手の管理手順書を作成してもらうよ。私が作った施工要領書、会社の標準チェックリスト、メーカーの工事手順書を参考にしてね。
頑張ります!といいたいのですが施工要領書や会社の標準チェックリストがあるのに何で改めて品質管理用の手順書を作らないといけないんですか?これでチェックすればいいと思うのですが・・・
それはね、施工要領書、チェックリスト、メーカーの工事手順書を見比べてごらん?
うーん、施工要領書は出来上がったものに対する基準が書いてあるけど、メーカーの工事手順書は作業の流れが書いてあるというところでしょうか?
チェックリストは・・・全部網羅していない気がします。
そう。施工要領書はどちらかと言うと施工要領の承認をもらうためや、監理者が出来上がった現場を確認(監理)するために使う意味合いが強いんだ。
そしてチェックリストは内容が薄い。これらを見ただけで職人さんは施工できると思う?
うーん、でも職人さんは工事手順書以外にもやり方を色々知っているし、施工要領書の要点を押さえて施工してもらえば出来ると思うのですが・・・
そこが”管理”をする上での見落としがちな点なんだ
”管理”ですか?
きちんと管理しているかを証明するために標準的なチェックリストがあるけど検査前に適当にチェックを入れているケースが多いんだ。
(ドキッ!!)
監理者が“監理”するための資料はある。職人さんが“作業”するために色々な知識・技能を持っている。でもその間を繋ぐ我々のツールがいい加減だと品質の良いものは造れない。
- 標準的なチェックリストは内容が薄い。
- その多くは検査に合わせて適当に作られている形式的なもの。
- 本当に施工管理にとって有用なチェックリストが必要。
現実的なチェックリストが必要
たとえば配管の吊りピッチは出来上がったものを見れば分かる。継ぎ手の飲み込み代もスケールを当てれば分かるよね?こういったものは施工要領書にも記載している。
はい。分かります。
でも配管の切断面の状態やパッキンが適正に入っているか、管端部の防錆はどうか?継ぎ手の締め込み具合など、施工要領書やチェックリストだけでは分からない項目もある。その管理は職人さん任せにするの?
職人さん任せと言われると心外ですが、ずっと張り付いて見ていられないし配管の切断面の状況の基準値なんて決まったものはないじゃないですか?
・・・ではそれで品質事故や怪我が起きたらお客さんに対してどう説明する?それでいいなら施工管理は何もしてないってことだよね?
うーん、そう言われても・・・
だからその現場にあわせて施工要領書と職人さんの作業を繋げるためのツールとして管理手順書を作成するんだ。
さっき言っていた”監理”と”作業”の間ってことですね?
施工要領書に沿って作業をしているか?は当然だけど施工要領書で見えない部分も含めて我々がどういった管理をしたか?というものを見える化するんだ。
ええ(面倒くさい・・・・)
チェックリストがあるけれどもっと深堀して具体的に細かく管理基準を決める必要がある。だから確かに面倒くさい。でも作成しておくことで我々の業務がかなり楽になるんだ。
- チェックリストを深堀して進化させる。
- 品質管理基準を明確化して現場に則したものにする。
5W1Hを意識する
でもそんな細かく見切れないですよね?楽になるイメージができません。
チェックリストも複雑になりそうですし・・・
そう思うかも知れない。けど本来チェックするべき内容を見える化するだけであって、現場で確認しないといけない事って何も増えてないんだよ。
それは分かりますが・・・そもそも見える化って具体的にどうするんでしょうか?
今回で言うところの見える化とは誰がどの作業をどんな基準でどの程度、何をもって良しとするか決めてあげることなんだ。5W1Hってやつだね。
最初にいただいた施工要領書など5W1Hを意識してを掛け合わせてる感じでよいですか?
そうだね。もう少し具体的に言うと①工種のある作業に対して管理基準を設ける。②誰が何を用いて確認をする。③確認の抜き取り率を決める。こんな感じだ。
なんだか機械や材料の工場みたいですね?
そのイメージであっているよ。全数検査する項目もあれば抜き取りのものもある。そして基準値がある。それを現場でもやるんだ。各工事項目について1シートでまとめてみてね。
分かりました。頑張って作ってみます!
- 本来チェックするべき項目であり仕事自体は増えない。
- 品質管理基準を明確化して現場に則したものにする。
- 誰がチェックしても一定の水準で管理できる。
見える化した品質管理手順書を作成しよう
ではいくつかポイントを説明します。「現場の品質管理を見える化しよう(その2)」でも紹介しているのでそちらも一緒に見てください。
見える化のポイント① 曖昧な表現は禁止
×1000mm程度
〇1010mm以内
施工にも精度があります。例えば吊りピッチが1000㎜だったとして、現場が1010mmだったらどうしますか?人によってはOKにしていませんか?
個人によって解釈が異なるような逃げ方をしない。〇か×かの2択になるようにする。職人さんとここが共有できていないケースが多い。施工精度を考慮して許容範囲を明確にしましょう。
見える化のポイント② 選択肢を1つに絞る
職人さんは色々な施工方法を知っています。正解は1つではありません。しかしあえて絞って下さい。正解が増える分だけ管理項目が増え、品質が安定しなくなるためです。
例として配管の切断だけでもバンドソー、高速カッター、塩ビカッター、シャーパー、と色々あります。これをバンドソーだけに限定します。
見える化のポイント③ 代理人が決めていい
明確になっていない基準については現場代理人(もしくは主任技術者)が管理値を決める。品質の基準ではなく、品質の確認業務のための基準であるため。
見える化のポイント④ 施工管理が全部見なくていい
目的は業務の見える化であって、確認するのが職人さんであっても問題はない。誰がやるのかをはっきりさせるだけ。その代わり見積段階できちっと擦り合わせをしておくこと。
見える化のポイント⑤ 写真を用いて見やすく
詳細図を用いてもよいのだが、よりイメージがつくように写真を活用する。
施工管理が全員同じ目線でチェックができるようになる。
できました!
よくできました。きちんと受注先が指定しているマーキングの方法にも触れているね。
なんかこれなら僕でも先輩並みに管理ができそうです!
そう、それもこの手順書の狙いなんだ。誰が管理しても同じ目線でチェックができる。
なんだかマニュアルみたいですね。
そうだね。この現場独自の品質管理マニュアルと言ってもいいだろうね。
でもこうやって作ってみるとMD継手だけでも管理項目ってこんなにあったんですね。
そうだね。設備工事はたくさんの職種と資機材がある。そして1つ1つ細かく見ないといけない。管理基準や方法は知っていても忙しさにかまけてチェックや写真を忘れてしまう事が多いんだ。だから見える化しておくことで漏れの無いようにするんだ。
下っ端の自分が作成する事でポイントも分かったし、これで現場確認頑張ります!
いかがでしたか?3回に渡って品質管理の見える化について紹介してきました。建築現場に限らず、メンバーが同じ目線で仕事をするというのは組織として重要です。そのためには旗振り役が率先して自分の頭の中を見える化することが必要になります。5W1Hを意識した現場管理、コミュニケーションを行ってより良い品質の建物を完成させましょう。