【サブコン各社を徹底調査】大手空調・衛生設備各社の特徴と比較 2020年度版
空調・衛生設備工事を主力事業とする大手、準大手を中心の建築設備会社を紹介する企画。今回は2020年度の有価証券報告書や各社HP情報より調査をしました。
2020年度は新型コロナウィルス感染症により社会全体大きな影響があったと思いますが、果たしてサブコン業界にはどんな影響があったでしょうか?大手の業績を比較しつつ調査をしてみました。
各企業の特色などはそのままに、昨年度の動向を踏まえながら紹介していきたいと思います。
- 設備業界に興味を持っている人
- 設備業界への就職を考えている学生
- 設備業界に従事しているが他会社の事も気になる人
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目次
高砂熱学工業
高砂熱学工業㈱は一般空調設備や産業空調設備を主力事業とし、建築設備(空調・衛生)業界最大手の企業です。その歴史も深く、2023年には創業100周年を迎えます。日本で最初のヒートポンプ暖房設備を設置したり、国産第1号のターボ冷凍機(高砂荏原ターボ冷凍機)をはじめとして、エアワッシャ、シロッコ型送風機や冷却塔など数多くを開発してきたパイオニアでもあります。
2020年に建設した「高砂熱学イノベーションセンター」ではZeb Readyを達成。アルミニウム冷媒配管を主導したり、グリーン水素製造用水電解装置の市場展開を開始するなど業界を牽引する存在となっています。
さらに注目される取り組みとして二酸化塩素ガスによる抗ウイルス試験で新型コロナウィルスを99.9%の減少効果があることが実証。Nextコロナの脅威に目を向け、協力事業者を募集しているとのことです。
まもなく100周年を迎えるにあたり、2020年11月に新中期経営計画”iNnovateon2023gobeyond!”を策定。楚その施策の1つに「第2・第3の柱となる事業を構築」を挙げています。業界を牽引するこの会社がどんな道を歩んでいくのか目が離せません。
【2020年度完成工事高】連結2,751.8億円 単体2,117.3億円
【従業員】連結5,555名 単体2,116名(2021年3月現在)
【平均年収】818万円(42歳・総合職。2021年3月現在)
【事業所】東京本店、横浜支店、関信越支店、東北支店、札幌支店、大阪支店、名古屋支店、中四国支店、九州支店、ミャンマー支店
【グループ・関連企業】国内7社、海外10社
【社是】人の和と創意で社会に貢献
【キャッチフレーズ】この星の空気をつくる、まもる。
新菱冷熱工業株式会社
新菱冷熱工業㈱は使われている漢字から某旧財閥系をイメージするかもしれませんが、独立系です。ただ三菱重工業㈱が最大の出資元となっており、その繋がりで一般空調以外にもプラントなどを始めとした大規模な産業空調を主力事業とする企業となっています。中でも水族館の他、地域冷暖房で最も実績のある会社となっています。(地域冷暖房とは1つのエネルギープラントからそのエリアの複数の建物へ電気や熱を供給するシステムです。)
茨城県つくば市にある研究所では多くの大学・公的機関・企業と共同で研究開発を行っています。最近ではMR(複合現実)を活用した「見える化」技術・スマート養蚕システムなど研究が進んでいるほか、ドライルームの省エネ制御技術・低酸素環境下トレーニング施設等の施工事例も見られます。
「令和2年度BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業」では建設プロジェクトのフロントローディングにあたり「設備専門工事会社による施工技術コンサルタント業務」を展開するなど、変化していく業界の新しい形を見せてくれています。
【2019年度完成工事高】連結2,288.8億円 単体1,763.1億円
【従業員】連結5,191名 単体2,242名(2020年9月現在)
【平均年収】926万円(43.6歳・総合職。2020年実績)
【事業所】北海道支社、東北支社、丸の内支社、横浜支社、北陸支社、名古屋支社、大阪支社、九州支社、名古屋支社、中国支社、アジア支社
【グループ・関連企業】国内8社、海外10社
【社是】一、正しからざることに与するな 一、あらん限りの誠実を尽くせ 一、学歴年令を問わない 実力ある者が指揮をとれ
【キャッチフレーズ】心地よい場所を、ひとつずつ。
三機工業株式会社
三機工業㈱は旧三井物産㈱機械部を母体とし、1925年に創立した歴史ある企業です。建築設備事業以外にも、産業機械、環境施設事業を主力事業としています。当時は炭鉱が盛んで、日本で最初にベルトコンベヤーを輸入・販売・製造した会社でもあります。2012年には「スマートビル」を提供するスマートビルソリューション部を立ち上げる等、省エネ事業にも注力しています。
2018年に神奈川県大和市に総合研修・研究施設「三機テクノセンター」を建立。2019年には同市に機械システム事業の主力生産拠点である「大和プロテクトセンター」を本格稼働するなど、積極的な設備投資、人材育成を行っています。
2020年には建築設備工事向け自律走行型風量測定ロボットを開発。搬送設備事業のもつ搬送機器・制御技術との連携による応用開発を進め、施工技術支援、施工管理業務など建設施工現場における多様な業務のDXを目指しています。建築設備事業以外にも産業機械事業を持つ三機工業ならではですね。
【2020年度完成工事高】連結1,900.6億円 単体1,688.7億円
【従業員】連結2,548名 単体2,048名(2021年3月現在)
【平均年収】875万円(43.2歳・総合職。2021年3月現在)
【事業所】東京支社(横浜支店、関東支店、千葉支店、茨城支店)、北海道支店、東北支店、北陸支店、中部支社(静岡支店、豊田支店、三河支店)、関西支社(京都支店、神戸支店、四国支店)、中国支店、九州支店、オーストリアオフィス
【グループ・関連企業】国内6社、海外4社
【経営理念】エンジニアリングをつうじて快適環境を創造し広く社会の発展に貢献する
【キャッチフレーズ】Engineering for the Future
ダイダン株式会社
ダイダン㈱は1903年創業と建築設備業界の中では最も歴史のある企業です。工業生産に必要な各種機械、電気器具、鉄材、石炭等の販売を目的とした「菅谷商店」から始まり、(中略)「大阪電気暖房㈱」を経て1987年から「ダイダン㈱」となりました。他の大手企業とは異なり、主力事業は建築設備部門(一般空調・産業空調)のみとなっています。一見「伝統」や「硬派」なイメージがありそうですが、採用ページには「若手にもどんどん仕事を任せる社風」と謳っており、大阪発祥ならではの勢いがありつつ自由な社風である印象を受けます。
九州支社と四国支店に加え、新たに北海道支店をZEB化。「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」35社の1社に選ばれていますが、事業環境の変化に柔軟に対応するためにはさらなるDXが必要と考え、IT・デジタル戦略を策定するなど長期ビジョンでの「人を活かすDX」を推進するとのこと。
他にも再生医療分野向けの独自技術開発・超臨界二酸化炭素を用いた産業用ケミカルエアフィルターの再生に関する実用化開発等の研究開発も行うなど、地球環境・労働環境などの社会問題にも対応してく姿勢を感じ取ることができます。
2月に発表された長期経営計画ではいよいよ「海外事業の強化」について言及しています。新規拠点の開拓を行い、その活躍の舞台を広げようとしています。
【2020年度完成工事高】連結1,577.1億円 単体1,561.9億円
【従業員】連結1,644名 単体1,531名(2021年3月現在)
【平均年収】946万円(42.5歳・総合職。2021年3月現在)
【事業所】北海道支店、東北支店、新潟支店、東京本社(関東支店)、名古屋支社(豊田支店)、北陸支店、大阪本社(天理支店、神戸支店、京都支店)、中国支店、岡山支店、四国支店、九州支社(熊本支店)、シンガポール支店
【グループ・関連企業】国内9社、海外2社
【社是】真剣努力、思考創造、協力和合、信義礼節、誠実感謝
【キャッチフレーズ】建物の「いのち」をつくる
株式会社大気社
㈱大気社は1913年に「ドイツ製兼材料及び設備の輸入販売並びに諸機材取り付け工事」を主たる目的として創業しました。1952年から塗装プラント事業も手掛け、建築設備事業と並び主力事業となっています。塗装プラント事業を行っているためか、特に目を引くのが海外の関連会社の多さです。企業の長期計画においても「グローバル事業領域の拡大」を明言しており、完成工事高2,025億円のうち海外が927億円となっています。
海外事業のさらなる拡大として2020年7月にはインドにおいてクリーンルーム向けパネルの製造・販売会社を連結子会社化。今後の成長を見込んでインドでの投資・事業拡大を加速させるほか、未進出国への進出にも前向きな姿勢をとっています。
コアとなる事業は建築設備に留まらず、完全人工光型の水耕栽培植物事業の拡大、自動車以外の大型塗装プラントへの事業拡大等、空間を創造する技術を生かした多彩な事業を展開しています。
【2020年度完成工事高】連結2,025.4億円 単体1,086.6億円
【従業員】連結5,042名 単体1,544名(2021年3月現在)
【平均年収】1,078万円(43.1歳・総合職。2021年3月現在)
【事業所】札幌支店、東北支店、関東支店、東京支社、横浜支店、中部支店、大阪支社、中国支店、九州支店
【グループ・関連会社】国内4社、海外51社
【社是】顧客第一
【キャッチフレーズ】空気を操る技術、空気に意思を
新日本空調株式会社
新日本空調㈱は三井物産㈱の斡旋を経て1930年に東洋キヤリア工業㈱として創業しました。世界初の全列車空調、全船空調施工を行うなど歴史のある企業です。当時は空調機器の製造・販売と工事部門がありましたが、1969年に工事部門を分離独立させて今の新日本空調㈱の体制となっています。一般空調・産業空調以外だと原子力事業が特徴的。
長期経営計画では「モノ(所有価値)」から「コト(利用価値)」といった価値定義の変化において知的資本の創造やその活用が今後の企業競争力のカギを握るとし、社会課題解決にも目を向けながら事業に取り組む姿勢を感じます。(少しお堅い印象)
研究開発方面では微粒子可視化技術を核とした「ソリューション事業」の深耕に注力。この可視化技術と飛沫計測を組み合わせ、オーケストラ演奏環境等における感染症リスクの低減効果検証に貢献。他にも可搬式抗菌フィルターユニットと感染防止フードの開発するなど新型コロナウィルス感染症に対応した開発を行っています。
またダクト選定アプリ「DUCTable」を無料公開(アップルストアのみ)するなど、設計・施工の実務者には嬉しい試みも行ってくれています。是非利用してみてください。(詳しくはHPの「技術とサービス」を参照。)
【2020年度完成工事高】連結1,072.5億円 単体921.0億円
【従業員】連結1,598名 単体1,087名(2021年3月現在)
【平均年収】852万円(44.4歳・総合職。2021年3月現在)
【事業所】北海道支店、東北支店、関東支店、本社(東京)、横浜支店、名古屋支店、大阪支店、中国支店、九州支店
【グループ・関連会社】国内2社、海外3社
【企業理念】「使命」と「価値観」
【キャッチフレーズ】(採用HPより)前線第一主義
株式会社朝日工業社
㈱朝日工業社は1925年に大阪で紡績会社の温湿度調整、噴霧給湿、除塵装置等の施工を目的に創業しました。建築設備工事を主力事業としていますが、その技術を生かして半導体やFPD(フラットパネルディスプレイ)製造装置向け精密環境制御機器を主とした環境機器の製造・販売を行っています。
昨年まで主な収益源だった大型のFPDへの設備投資が一巡し、2020年度は大きく売り上げを落としてしまいました。中小型のパネルは回復基調だそうで来期は業績の回復を見込んでいます。
研究開発方面ではZEB化実現に向けて新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業で「液化空調システム」を開発。電解水燻蒸殺菌装置や微粒子や気流の可視化試験室の構築など新型コロナウィルス感染症対策委にも有効な開発を行っています。
アグリ分野にも注力していますが、今般2021年6月に”コメで作った飲むワクチン「ムコライス」の実現に向けて大きな一歩”と東京大学医科学研究所が記事を掲載しましたが、これにまつわる技術に朝日工業社が持つ栽培ノウハウ術が活かされているそうです。
とても興味深い研究ですので是非ご覧になってみてください。
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00104.html
【2020年度完成工事高】連結704.3億円 単体689.6億円
【従業員】連結997名 単体952名(2021年3月現在)
【平均年収】799万円(44.8歳・総合職。2021年3月現在)
【事業所】東京本社、北海道支店、東北支店、北関東支店、東関東支店、横浜支店、名古屋支店、大阪支社、中国支店、九州支店
【グループ・関連会社】国内2社、海外2社
【企業理念】快適環境・最適空間の創造
【キャッチフレーズ】「心地よい」が当たり前の世界に。
東洋熱工業株式会社
「東熱」でお馴染みの東洋熱工業㈱は1937年に創業。非上場の独立系企業です。ラジオ・テレビスタジオの空調施工を早くから手掛けた経験から1957年に世界最初のエルボ型消音器を開発。その後すべての空調設備の消音装置として採用される事になった他、1964年には他社に先駆けてクリーンルーム技術を研究開発・施工を行うなど空調において確固たる技術を持っています。
熱源システム全体の最適制御を行うE-SCATや熱源システムと連携した排熱の有効利用を図るC-SCATなど、空調の省エネルギー技術の開発に注力。リニューアルにおける現地調査から図面作成・計画提案まで一連の作業を飛躍的に省力化する3DレーザースキャナとBIMの連携を行うシステム等の開発も行っています。
2020年10月には既存の空調設備に付設する大空間向け除菌システムの製品化を完了するなど新型コロナウィルス感染症対策にも貢献。
2021年6月には社長が交代しています。“強い心と正しい考え方”を持つ「人間力」の高い人材を育成し、「技術力」と両立させることで課題に立ち向かう強い企業を目指すとのこと。
【2020年度完成工事高】648.3億円
【従業員】804名(2021年3月現在)
【平均年収】928万円(44.9歳・総合職。時期不明)
【事業所】東京本店、札幌支店、東北支店、関東支店、横浜支店、名古屋支店、大阪支店、中国支店、九州支店
【グループ・関連会社】国内2社、海外5社
【経営理念】環境に、社会に、文化に、責任ある企業として調和のとれた発展を目指す。
【キャッチフレーズ】技術を、人と地球のために
三建設備工業株式会社
三建設備工業㈱は1946年に創業した、非上場の独立系企業です。いち早くZEBの技術開発に取り組み、つくばみらい技術センターでは、2013年度実績で全館のZEBを達成しています。(ダイダン、新日本空調、新菱冷熱工業と共に空調衛生工学会発行の「ZEB先進事例集」でも紹介されています。)そして2018年には北海道支店を寒冷型のZEBとして建設するなど経営理念である「環境創造企業」として突き進んでいるようです。
2021年6月にプレスリリースされた「(仮称)さいたまSBビル新築工事」においてはZEBとしてというのはもちろんのこと建築工事も含めて自社で設計施工します。そして女性エンジニアが中心となり設計・施工管理を行うとともに、「働き方改革」のモデル現場として運営するそうです。
ZEBの導入もいち早く行っていましたし、社会課題に対して真摯に取り組む姿勢を感じます。今回は建築プロジェクトの上流から末端までを女性中心で進めていくことでこの業界、さらには日本社会全体の働き方の見本を示してくれるのではないかと期待しています。
【2019年度完成工事高】798.0億円
【従業員】1,266名(2021年3月現在)
【平均年収】893万円(44.3歳・総合職。時期不明)
【事業所】北海道支店、東北支店、東京支店、北関東支店、東関東支店、横浜支店、名古屋支店、大阪支店、中国支店、九州支店、バンコクオフィス
【グループ・関連会社】国内7社
【経営理念】環境創造企業
【キャッチフレーズ】いつも、二度とない仕事。
【HP】https://skk.jp/
日比谷総合設備株式会社
日比谷総合設備㈱は1966年に創業。その名の通り、東京都内の大規模現場で多くの実績を持っています。データセンタ関連の技術開発、分散した各設備を統合管理(システムインテグレーション)、ZEB化関連技術の開発に注力しているようです。
2021年1月に子会社であったHITエンジニアリングを吸収合併、7月には「BIM推進室」を設置するなど組織改革を遂行中。DXを推進してくと共に技術開発面ではスマート関連技術の開発・データセンター関連技術・新型コロナウィルス感染症対策を今後も行ってくようです。
2020年度竣工物件の1つにリニューアルZEBというものがあります。今後改修工事におけるZEB化は需要が高いと見られますがこういった方面への注力もしていく模様です。
働き方改革にも注力し、男性・女性それぞれに働き方改革担当がいるようです。内勤者においては在宅勤務を進めるなど多様な人財の確保と働き方を見据えた業務改革を行っているようですね。
【2020年度完成工事高】連結731.1億円 単体641.8億円
【従業員】連結944名、単体793名(2021年3月現在)
【平均年収】685万円(45.2歳・全従業員。2021年3月現在)
【事業所】東京本店、北海道支店、東北支店、横浜支店、東海支店、北陸支店、関西支店、中国支店、四国支店、九州支店、沖縄支店
【グループ・関連会社】国内2社
【経営理念】HIBIYA Vision(詳しくはHP参照)
【キャッチフレーズ】時代にまっすぐ、技術にまじめです。
斎久工業株式会社
斎久工業といえば衛生、衛生といえば斎久工業というイメージを持っている方もいらっしゃるのではないでしょうか?斎久工業㈱は、給排水衛生設備分野の第一人者として1923年に創業、まもなく創業100周年を迎えます。名前の由来は創業者の齋藤久孝より。名だたる超高層ビルを始め東京スカイツリーの衛生設備工事も手掛けており確かな技術を持っています。
2021年現在、日本で一番熱いと言われているであろう大規模再開発「虎ノ門・麻布台地区第一種再開発事業(虎ノ門・麻布台プロジェクト)」の施工も行っているのですが、なんと4つある街区のうち3つの街区にて施工を行っています。スカイツリーに続き、新たな日本のランドマークにその名を刻む日も近いことでしょう。
【2020年度完成工事高】572.1億円
【従業員】499名(2021年3月現在)
【平均年収】737万円(42.4歳・全従業員。時期不明)
【事業所】札幌支店、東北支店、東京支社、東関東支店、横浜支店、名古屋支店、関西支社、岡山支店、広島支店、四国支店、九州支店
【グループ・関連会社】情報なし
【経営理念】快適で安全な生活を支える高品質な設備およびサービスを提供する。
【キャッチフレーズ】水とともに、さらなる「信頼」と「品質」をめざして。
2019-20年度サブコン各社を比較
ここからは紹介してきた各社の様々なデータを比較してみます。表でまとめて見ると様々な側面が見えてきますが下記の表は連結の完成工事高順に各社を並べたものです。2019年度と比較して増えたものについては赤太文字、10%以上低下した項目については青太文字で表現しています。
会社名 | 完工高(連) | 完工高(単) | 設備事業の売上 | 従業員数(連) | 従業員数(単) | 平均年収 | 1人あたりの売上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
高砂熱学 | 275,181 | 211,731 | 211,731 | 5,555 | 2,116 | 818 | 100.1 |
新菱冷熱 | 228,884 | 176,310 | 非公開 | 5,191 | 2,242 | 926 | 78.6 |
大気社 | 202,548 | 108,667 | 93,793 | 5,042 | 1,544 | 1,078 | 70.4 |
三機工業 | 190,067 | 168,879 | 166,503 | 2,548 | 2,048 | 875 | 82.5 |
ダイダン | 157,712 | 156,194 | 156,194 | 1,644 | 1,531 | 946 | 102.0 |
新日空 | 107,253 | 92,100 | 92,100 | 1,598 | 1,087 | 852 | 84.7 |
三建設備 | 非公開 | 79,801 | 79,801 | 非公開 | 1,266 | 892 | 63.0 |
朝日工業 | 70,435 | 68,968 | 61,218 | 997 | 952 | 799 | 72.4 |
東洋熱 | 非公開 | 64,830 | 64,830 | 非公開 | 804 | 928 | 80.6 |
日比谷 | 73,119 | 64,181 | 64,181 | 944 | 793 | 685* | 80.9 |
斎久 | 非公開 | 57,216 | 57,216 | 非公開 | 499 | 737* | 114.7 |
比較① 完成工事高
ここからは表を項目別に比較したものを紹介します。
2020年度は新型コロナウィルス感染症が大きく社会へ影を落とした、と誰しもが思うでしょう。では空調衛生大手のサブコンではどうなっていたか?工期の延伸や中止もあったでしょう。完成工事高を見ていくとその程度が分かってきます。
まずは2019年度の完成工事高はこちらです。
続いて2020年度の完成工事高になります。
表中でも表現していますが、紹介している11社のうち約半数が前年度比10%以上の減収となっています。一方三建設備・日比谷総合・ダイダンにあってはほぼ横ばい、斎久工業にあっては増収となっています。新型コロナウィルス感染症の影響もあったものの、影響を免れた企業もあるようです。
朝日工業社は前年度比で大きく落としていますが、これは大型工場での設備投資が一巡したことによる減収ですので、新型コロナウィルス感染症の影響は限定的であったと読み取れます。(東洋熱工業に関しては非上場企業で詳しい資料がなかったため大幅減の原因特定が困難でした。)
- 11社のうち約半数が10%を超える減収となっている
- 横ばい、増収の企業も4社となっている
- 新型コロナウィルス感染症の影響はあったものの一時的である可能性も感じる
比較② 受注高
では数字が落ち込んだのは完成工事高だけか?来年以降の受注を見ることによって先行きが見えてきます。有価証券報告書には来期に行う工事をどの程度受注したか?その数字が掲載されています。ここでは2019年度の受注高と2020年度の受注高を比較したものを紹介します。(非上場企業は基本的に情報がありませんので割愛します。)
まずは連結の場合の比較
続いて設備セグメント単体の比較。
連結を見ると連結事業の割合が大きい高砂熱学と大気社については2020年度の完成工事高と同様に減っています。一方設備セグメント単体で見た場合、殆どが横ばいか受注高は増えています。
つまり国内の建設工事の需要はさほど落ちておらずコロナの影響は多少あるものの堅調であると言ってよいかと思います。連結部分で落ち込んでいるのは海外部門の方でまだ需要が戻ってこないと見ています。
一説によると上位40社のゼネコンは2025年あたりまでの受注をすでに確保しているとのこと。新型コロナウィルス感染症の影響でこれがどこまで崩れたのか?それとも逆に新たな需要喚起となったのか?建設業界は景気の影響を遅れて受ける傾向があるため、来期以降も注目したいと思います。
- 国内の建設工事の需要はさほど落ち込んでいない
- 連結事業で見ると需要はまだ回復しきっていない(主に海外?)
- 来期以降も工事受注高には着目したい
比較③ 2019-20年度 従業員数
2020年度は日本全体で多くの企業が採用を見送ったり、別会社へ出向させたりと従業員の配置に苦慮していたようですが、空調衛生サブコンはどうだったでしょうか?2019年度の従業員数と比較してみます。
まずは2019年度はこちらになります。
続いて2020年度はこちらです。
高砂熱学は連結での従業員が大幅に減っています。海外の現地採用の方で整理があったのでしょうか?大気社については逆に連結部分が増えています。海外事業の拡大を謳っていますし、インドの現地法人を連結子会社化した影響があるのでしょう。
単体会社(ほぼ国内)で見てみると微減程度となっています。定年退職者の事も考えると採用は多少は控えたのでしょうが採用に消極的になった…とはいえないでしょう。各社の採用HPを見てみても2019年度と同等の採用をしています。
三建設備工業にあたっては社員数は結構な人数を採用しているようです。従業員の変化から見てもまだ新型コロナウィルス感染症の影響は出ていないか、一時的なものであったか?と見ることができます。
大きなダメージを受けている他の業界に比べて建設業の現状は恵まれているのかもしれませんね。
- 高砂熱学は連結会社で大きく人員が削減されている
- 大気社は海外事業拡大に伴い、連結会社で増えている
- 国内はほぼ例年通りの採用を行っている
- 三建設備工業に至っては従業員は増えている
比較④ 2019-20年度 1人あたりの完成工事高
従業員1人あたりの完工高についても2019-20年度で比較してみます。算出条件は以下の通りです。
(単体会社完成工事高)÷(従業員数)
2019年度は数値の良かった東洋熱工業と朝日工業社は大幅に落としてしまいました。一方斎久工業は1人あたりの売上高を上げて11社の中でトップになりました。頑張っていますね。が、人手不足となっていないか少し心配でもあります。
ダイダン・高砂熱学は数値を落としたものの、まだ単価の良い仕事がとれているのか?人員配置がドンピシャであるのか?さすがといったところですね。
大気社は意外と低い単価・・・からさらに今年は減っていますが、平均年収は1,078万円と11社の中で最も多くなっています。おそらく国内の設備工事はそこまでの高単価でなくても海外や塗装プラント事業での恩恵があるのだと推察します。
三建設備は従業員数が増えていることもあり、相変わらず従業員1人あたりの売上が低くなっています。事務系社員のことも考えると工事部員1人あたりで達成しないといけない売上高は多そうで大変そうです。
他の会社は昨年より微減程度となっており、仕事に対して大幅に人余りだとかという状況には無いようです。来年度の受注も見込まれていることから、段々と元の水準に戻っていくのではないでしょうか?
- 従業員1人あたりは斎久工業が最も稼いでいる結果となった。
- ダイダン、高砂熱学はガッチリ
- 大気社は国内の設備工事単価は良くないものの他での恩恵がありそう
- 三建設備工業は相変わらず1人あたりの稼ぎが少ない
最後に
いかがでしたか?2020年度版として空調・衛生工事主体の大手・準大手サブコンを様々な数字を交えながら紹介してみました。
各社の有価証券報告書や中期経営計画を読み込んでいくと実に多彩な情報が入っていることが分かります。現職では社員に対して中期経営計画の説明会はあるのですが、普段現場に常駐しているサブコンの施工管理者はどうでしょうか?なかなか聞く機会も少ないと思います。
私のブログを見ている方もこれを機にご自身の会社の決算資料だったり中期経営計画に目を通してはいかがでしょうか?会社の現在地や進む方向性が見えると、ご自身の業務を大局的に見ることができるかもしれません。
とはいえ、多忙な建設業界の仕事。目の前の仕事に関わる方々に真摯な姿勢であることは忘れないようお気をつけください。