設備施工管理が学ぶべき外壁貫通処理 ~雨仕舞の基本とシールの種類~
配管やダクト等、建築設備の外壁貫通部廻りの止水処理は現場毎に様々な考え方があり、納まりは様々です。要領書を作図して、承認をとるのは構いません。しかし本当にそれは基本を押さえた納まりになっているでしょうか?シール職人からすればサブコンで施工するシールは素人の工事。1年で切れてしまうという話も耳にします。
ここでは建築設備の外壁貫通に特化した止水とシール工事についての基本的な考え方を紹介します。勉強するほど止水は奥が深くことが分かります。基本をしっかり押さえることで分からない事が分かるようになります。この記事を読んでいただくことで設備工事で可能なレベル、建築に依頼しないといけないレベルを把握していただきたいと思います。
- シール工事に関して基本を見直したい。
- 何となく幅10mmのシールを施工しているけど詳しい理由は分からない。
- 毎回詳細図を指摘されて、何が正解だか分からない。
- 要領書通りにやったけど雨水が侵入してきた。
目次
雨仕舞の基本
漏水は次の3条件が同時に満たされた場合に起こると言われています。
- 水があること
- 侵入口があること
- 水を移動させるエネルギーがあること
つまり、これらのどれか1つの条件を積極的に取り除くようにすれば雨水の侵入防止を図ることができる。これが雨仕舞の基本となります。
フィルドジョイント構法とオープンジョイント構法
次にそれぞれについての対応する構法について紹介します。
1については雨がかからない場所を貫通させることが考えられます。雨線ライン45°より庇側にしたりなどです。
2については侵入口を塞いでしまえばいいわけです。これをフィルドジョイント構法と言います。
3について補足すると、重力、運動エネルギー、表面張力、毛細管現象、気流(圧力差)などがあります。これらのエネルギーを消滅させるか、害のない程度まで弱めてしまえばいいわけです。これをオープンジョイント構法と言います。
設備の配管やダクト廻りの貫通部においてもこの考えを踏襲、また組み合わせてることで“雨仕舞(=止水)”を完成させます。
対策は3重策で考える
上記2つの構法を設備工事に置き換えた場合、具体的には次のような事が考えられるでしょうか。
考え方 | 設備での具体例 |
---|---|
穴を塞ぐ考え (フィルドジョイント構法的) | (防水)モルタルをしっかり充填する ハト小屋内には床スラブを設ける シールを充填する 防水用のパテ材を用いる 塗膜防水を行う |
エネルギーを逃がす考え (オープンジョイント構法的) | 配管に勾配をつける カバーを設置する 水切りを設置する 室圧を調整する |
ポイントはこれらの対策を3つ組み合わせてください。なぜなら設備工事で行う雨仕舞は多くが専門の技能士の手によるものではなく、1つ1つの策に対しての信頼度が建築のそれとは異なります。
1つの対策が破られた後に他の2つで水の侵入を防止する。これが設備工事の止水についての基本的な考えになります。例えば
- 雨掛かりにならないように設置し
- カバーを設置し
- 管廻りはシールする
とか、屋根や庇のない妻側に設置であれば
- 配管には勾配をつけ
- カバーを設置し
- 管廻りはシールする(ダブルシール)
など。
具体的な納まりについてはまた別の記事や事例集で紹介できればと思っています。
シール工事の基本
設備の外壁貫通に関する止水で最もポピュラーで重要なのは”シール”による止水になります。本来シールを施工する上で検討しておかなければいけない事はたくさんあります。
ここではその基本的な考え方を紹介します。
ムーブメントについて
シールは目地に打つ場合、その打設箇所によって2つに分別されます。
ワーキングジョイント:シール目地が貫通部と異なる動きをする恐れのあるもの。
ノンワーキングジョイント:シール目地と貫通部が同一の動きをし、動く恐れのない、又は小さいもの。
堅い言葉で言うと“ムーブメント”の有無”で種類が異なるいうことです。その要因は様々ですが以下のようになものが挙げられます。
- 温度変化による部材の伸縮
- 地震による層間変位
- 風による部材のたわみ
- 部材の含有水分の変化による変形
- 部材の硬化による収縮
ワーキングジョイント=ムーブメントが有る部分のシールになります。シールがムーブメントに追従するように施工しないと、シールが切れて止水効果が無くなってしまいます。
例えば、ALC壁の貫通において配管をRC床側で固定をとった場合、層間変位でRC側に追従する配管とALCとで別の動きになり、シールが切れてしまうわけです。
接着面数とバックアップ材
バックアップ材=シールの背面の押さえ
と思っていませんか?もちろんそういった役割もあります。しかしこれだけではありません。
シールの背面と貫通部との縁を切ることによって接着面を側面だけにする(=2面接着)とすることがバックアップ材の重要な役割になります。
接着面を変えることでムーブメントとの追従性をコントロールするのです。2面接着は貫通部への拘束力が弱くムーブメントへの追従性が高くなります。
一方バックアップ材を用いない3面接着は2面接着よりも止水性は高いものの、接着面が多いため固いシールになります。固いシールはムーブメントが有る時に、シールが動かず、逆に接着面が剥がれる(=シールが切れる)ことになります。
以上のように、貫通部にムーブメントがあるかどうかでバックアップ材を使い分けなくてはいけません。
比較項目 | ワーキングジョイント | ノンワーキングジョイント |
---|---|---|
ムーブメント | 有り | 無し |
接着面数 | 2(貫通材+貫通穴側面) | 3(貫通材+貫通穴側面+背面) |
固さ | 柔らかい(追従する) | 固い(追従しない) |
貫通箇所の例 | ALC板,押出中空板,外壁パネル | RC壁、ハト小屋の貫通パネル |
シールの幅と厚み
シールは10㎜幅以上で施工しなさい。
こう教わってきませんでしたか?私も随分いい加減な指導を受けていたと思います。
これもしっかり基準があります。ワーキングジョイント、ノンワーキングジョイントでそれぞれ異なった許容範囲があり、シールの種類に合わせて目地幅と目地深さを設定する必要があります。
今回の記事ではセメダイン株式会社様のHPに掲載されている資料を参考に紹介します。(https://www.cemedine.co.jp/architecture/waterproofing/joint/index.html)
<ワーキングジョイントの場合>
<ノンワーキングジョイントの場合>
ノンワーキングジョイントは表の通りに設定すれば良いですが、ワーキングジョイントについては少し複雑ですよね。10mm幅だと10mmの深さで良いですが、15㎜の深さだとNGなのです。目地幅に合わせた深さにしないとムーブメントへの追従が担保できません。
シーリング材の種類とプライマーは正しく組み合わせる
設備配管廻りは多くは変成シリコンになるかと思います。ですが、変成シリコンは固いからと言って柔らかいポリウレタンやシリコンを使用することはありませんか?
シールは使用場所によって適する成分が異なります。メーカーのカタログにも掲載されていますし、不安なら直接確認を取ってみてください。
さらに忘れてはいけなのがプライマーです。もちろん使ってないなんていうことは無いですよね?そして同じもので異なるシールと合わせていませんか? 付着しない組み合わせだとやはりシール切れに繋がります。プライマー前の清掃・塗布後の乾燥時間を守って施工してください。
仕上げシールは建築工事が望ましい。
さあ、今まで施工してきた配管貫通部を思い出してください。どういった施工になっていたでしょうか?
私も正直調べれば調べるほどシール工事というものは奥が深く、設備工事で施工するには難しいというのが本音です。
よくよく考えて見たら設備工事には様々な技能士の方がいらっしゃいますが、防水技能士を持っている方というのは見たことがありません。(いらっしゃったら申し訳ありません。)
そのためシール工事に関しては設備工事でなく、建築工事としてプロであるシール屋さんにお任せした方が良いでしょう。餅は餅屋に、です。最低限でも最終シールはそうするべきです。
この辺りも将来的には建築工事に以降していくと良いと思っています。
参考図書
最後にシールについて調べたい方に参考資料を紹介します。
<建築用シーリング材ハンドブック>
この記事を書くにあたり、参考にさせていただいたのが、日本シーリング材工業会が発行している「建築用シーリング材ハンドブック」です。
こちらにシールの計画、目地幅、バックアップ材の有無などポイントが分かりやすく記載してあります。お求めやすい価格にもなっていますので、是非事務所に一冊購入してみてください。
日本シーリング材工業会様のHPはこちら⇒http://www.sealant.gr.jp/
他にも「JASS 8 建築工事標準仕様書 防水工事(日本建築学会)」などもありますが、範囲が広いのと専門的すぎるので、設備の施工管理でそこまでの勉強は不要であるかと思っています。(一応HPは載せておきます。https://www.aij.or.jp/books/categoryId/789/)
いかがでしたか?今回は設備の外壁貫通廻りの止水とシールについての基本的な考え方について紹介してみました。奥が深い防水工事ですが、基本となる考え方を知ることで現場での判断力がついてくると思います。現場に生かして漏水のない施工を心掛けましょう。