【講義編②】空調衛生設備の施工図を描く上で大事にしたいこと

施工図

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「空調衛生設備の施工図を描く上で大事にしたいこと」というテーマで設備施工図を作成する上でのポイントを紹介しています。

今回は認識しておいて欲しい話の第2回になります。手戻り工事や不安全作業を事前に防ぐために覚えておいて欲しい事を紹介していきます。結構見落としがちな部分です。

配管やダクトを納めることだけに一生懸命になってはいませんか?手戻りのないような図面にする、施工品質を確保するには優先順位を見極めることが重要です。

キーワードは「建築の納まり」「架台は躯体」「法令遵守」「自動制御は人間でいう脳」

こんな人におすすめ

  • 施工図作成にまだ慣れていない
  • 納まりを現場まかせにしがち
  • 施工図通りに現場が進まず困っている
  • 納まり優先順位を理解したい

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建築の納まりを理解する

内装工事のイメージ

空調衛生設備の施工図を描く上で同じくらい大事なのが

建築の納まりを理解しているか?

という事になります。例えば

  • LGSの組み方(必要なスタット・野縁の場所等)
  • エキスパンション・免震・構造スリットなどへの追従
  • 屋上等での防水アゴの形状と防水の施工スペース
  • 特定天井*やシステム天井内での天井振れ止め材
  • ALC・アスロックで配管の貫通が不可能である場所

こういったものが挙げられます。

自分の所だけ納まったように見えて、他の取り合いで変更を余儀なくされるパターンは数多くあります。(私も駆け出しの頃はそうでした。)

そもそも建物は建築と設備・電気が一体になって造り上げていくものです。専門会社であるサブコンですが、他の業種を全く見なくてもいいという訳ではありません。

まず他の業種の納まりを理解することで、何を調整しなくてはいけないのか?ということが見えてきます。何気なく回覧される製作図や現場での各業者の動き、実際の納まりを見る事でどういった事がポイントになるのか?ということを学ぶようにしましょう。

※特定天井とは脱落によって重大な危害を生ずるおそれがある天井で「 6m超の高さにある」、「面積200㎡超」、「質量2kg/㎡超」の吊り天井のこと

架台は配管施工より前に

耐震支持や振れ止めにおける架台などを後回しにする人を散見します。架台を現地で寸法を取って発注する場合、設置する際に不安全な作業になりがちです。組みあがった配管を外したりということもあります。

特に耐震支持に至っては架台の形状が決まっているので融通が利きません。先に検討するのは当然のことです。

そもそもの考え方として「架台は躯体と同等」という認識を持ちましょう。躯体に直接固定する架台は躯体と一体です。躯体がなければ配管・ダクトは施工できません。それと同じなのです。

TFASやRebroなどの設備専用CADを使用していれば作成には手間は掛からないと思います。そうでないCADの場合でも施工図の中に具体的な形状を反映させるようにしましょう。

とはいえ実は難易度の高い話で配管と架台が合わなくて無理に施工すると配管経路が曲がったり、余計な応力が掛かったりしてしまいます。どこに調整代を持ってくるか?という事も含めて事前検討しましょう。

優先順位は法令に関わるものから

多くの設備施工管理者はこう教わって来ていませんか?

勾配が必要で融通の利かないものを優先して検討しなさい と。

納まりを検討する上では間違っていません。しかし根本的な話として融通の利きそうなものが後回しになって無理な納まりとなった場合に、求められる能力が得られないと問題となる設備もあります。

代表的なものとして

  • 機械排煙設備
  • ガス設備
  • 消火設備

などが挙げられます。これらは基準を満たしていないと人命に関わるものです。ほんの少しでも能力が出ていないとか万が一漏れてしまったりすると大問題であり、ごまかしの利かないものになります。

言い方は悪いかもしれませんが、ぶっちゃけた話をすると

空調用空気・給水・排水が漏れたところで謝罪してお金で解決できる問題がほとんどです。しかし上記のような人命に関わる設備についてはそうはいきません。

それぞれが能力を発揮できるよう、事故が起こらないよう優先して納まりを検討してください。ではそれで勾配ものが納まらなかったら?PSを増設してもらうなど、意匠を変えてもらう他にないでしょう。

人命に関わる設備は法令でも厳しく基準が決められており、設備に携わる人間としては一切の譲歩をしてはいけません。

少しだけ具体例を紹介します。

機械排煙設備

機械排煙の特徴はその風量の多さと風速の大きさです。(一般的にはダクト内風速は20m/s以下)風速が大きいとその分圧力損失も大きくなりますが、圧力損失(=ダクト経路の送風機動圧:Pv)は「風速の2乗に比例」するため一般的な低速ダクトとはスケールが異なってきます。

送風機動圧の算出式

Pv=γ×ρ×V²/2

γ:局部抵抗係数

ρ:空気の密度(=1.2kg/m³)

V:風速(m/s)

圧損計算を行う際に局部抵抗係数γを用いますが、この係数は十分な直線距離・層流の元で行った時の実験を値を元に決められています。無理なダクティングを行ったときに層流が保持されるという保証は無く、損失の振れ幅は予想以上のものになります。

排煙の納まりを優先させる、もしくは追加予算をもらって排煙機を大きくする等の対策が必要になります。

ガス設備

ガス設備の関連法規は建築基準法よりもガス事業法に基づいて規定されています。馴染みのない人も多くいるかと思います。

がス事業法ではガス事業者(東京ガスや大阪ガスなど)に対して経済産業省令で定める技術上の基準に適合するようガス工作物を設置したり、保安規定を設けて維持管理を行うよう記載されています。

各ガス事業者は大まかに日本ガス協会が発行する技術基準に則って事業を行っていますが、細かい基準は事業者ごとに異なります。

特に大規模建物・超高層建物・地下街・中圧引込などにおいては必要な安全設備や配管の取り回し方、支持の方法も変わってきたりします。

ガスは気体なので納まりに融通が利くだろうと思っていたらそうではないという事を頭に入れ、各ガス事業者の技術基準に適合するよう早めの打ち合わせを行うよう心掛けましょう。漏れたら大惨事です。

ガスは意外と融通が利かない

  • ガス事業法の技術上の基準に適合した納まりがある。
  • 特に大規模建物・超高層建物・地下街・中圧引込などではそのルールが顕著に現れる。

消火設備

消火設備も人命に直結する重要な設備です。新築時の品質担保は当然のことですが、何年も経過した際でもいざという時に作動しないなんてことが無いようにしなければいけません。

例えばこんなことはないでしょうか?

消火設備をイジメていませんか?

  • 乾式連送で水たまりが出来るルートとなっている→その部分だけ腐食が進行、あるいは凍結の可能性
  • 露出配管でSPヘッドにろくな支持がとれない→地震の際に配管が破損する可能性

消防検査や定期点検があるとはいえ、全部を完璧に見る事ができるわけではありません。検査に合格するためだけではなく、施工品質的に重要なポイントを消火設備業者と打ち合わせ、あるいはアドバイスをもらいながら納まりを検討することを心掛けましょう。

測定器類は適正な位置に

ダクトや配管などの物理的な納まりに一生懸命になりすぎて疎かになりがちなのが自動制御です。特に計器類の位置は適正な場所に設けないと制御が上手くいかない可能性があります。

よく建築設備は人間でいう血管とか神経という表現を使いますが、自動制御盤はいわば人間でいう脳の部分。各測定器類は五感や臓器の運動を司る部分。間違った情報を拾ってしまうと頓珍漢な指示をしてしまいます。

例えば実際は暑いのにそれを適切に感知していなかったとすると、人間は簡単に熱中症になったり火傷をしてしまいます。せっかく立派な体や丈夫な血管があったところで指揮命令系統がぽんこつだと何の意味もありません。

流量計でいうと適切な直線距離が必要です。棒温度計であれば適正な芯棒の差し込み具合や差込方向があります。

試運転調整時期は設備工事で最も多忙な時期です。加工管の作り直しや大幅なルートの修正、特殊な継手の不足等が起こらないよう、事前に自動制御業者と使用する測定器と納まりの調整を心掛けましょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか?今回は設備施工図を描く上で見落としがちでも実は優先度の高いものについて紹介しました。

配管・ダクトの段取りや納まり調整に一生懸命になるあまり施工しては直して・・・それが危険作業になり・・・という経験は誰もがあると思います。

特にガス・消火・自動制御など、2次下請け以降となりやすい業種はその重要度と比較して現場内で立場が弱いことが多いです。管理費用を払っているのだから各業者はきちんと見るべき、という意見も聞きます。しかしそれではゼネコンが協力会社に対して威圧的であった昔の建設現場と同じではありませんか?

設備の施工管理は配管・ダクトだけを極めればいいという訳ではありません。建築も含め専門外の業種に対しても敬意を持ってしっかり耳を傾け、アドバイスをもらい、円滑に現場が進むように調整していきましょう。

施工図

Posted by 設備監督