【講義編①】空調衛生設備の施工図を描く上で大事にしたいこと
施工図はただ設計仕様を満たしつつ納まっていればいいわけではありません。その名の通り「施工を行うための図面」ですから
読み取りやすく、漏れがなく、精度よく
というのがポイントとなってきます。
図面に矛盾があると職人さんの手が止まります。考えてしまします。施工管理が現場に呼ばれます。皆が時間を取られてしまう、そんな図面は「施工図」ではなく「ただの納まり図」とでも言った方がよいでしょうか?
ここではそうならないための空調・衛生設備の施工図を描く上での基本的な考え方・簡単なポイントを紹介します。
キーワードは「効率」「整合性」「見やすさ」です。
手を動かす前に知っておいて欲しい内容となっていますので是非ご覧になって下さい。
- 初めて施工図を作成する
- 納まりを現場まかせにしがち
- 施工図通りに現場が進まず困っている
目次
労務の効率化が現場利益に直結する
一番最初に念頭に置いてほしい話です。
建設工事においては労務費に関係する部分の振れ幅が最も大きくなります。いかに効率よく職人さんに動いてもらうかというのはとても重要な事なのですが、何もこれは工程管理に限った話だけではありません。
事前に行った検討・段取りの等の情報は施工図に集約されているでしょうか?他の資料と矛盾していませんか?
図面に矛盾があると職人さんの手が止まります。考えてしまします。施工管理が現場に呼ばれます。
さて、職人さんの1日あたりの労務単価はいくらでしょう?施工管理の1日の人件費はいくらでしょう?それを考えれば無駄なことをしている余裕なんてないはずです。
職人さんになったつもりで実際の作業の流れをイメージしてみましょう。労務を効率よく行えるような施工図、そういったものを目指して作図をしていくことを心掛けましょう。
- 機材での削減幅はたかが知れている
- 無駄な労務であっという間に利益がひっ迫する
- 効率よく動いてもらうための施工図を目指そう
図面で会話しよう
意見が分かれるかもしれませんが、私は現場に出て職人さんと一緒に考え、汗を流す施工管理が良い施工管理とは考えていません。それは駆け出しの頃だけで十分。
図面を含めた段取りに注力し、作業自体は口を出さずに終わっているというのが理想だと思っています。当然予期せぬトラブルはありますが、いかに施工管理が現場に出ないか?ということを念頭に置きます。(「段取りしているつもり」の人も中にはいますが・・・)
図面を渡したら職人さんが段取りを始めて作業完了まで質問が来ないような図面、意図が伝わるような・・・言うなれば「図面で会話」できていることを理想として施工図を描くようにしましょう。
- 直接説明しなくて済む図面を心掛けよう
- 疑問の少ない図面を心掛けよう
- もちろん図面の前段階の検討が大事
良い施工図にはストーリーがある
そのダクト・配管を吊り込む時、どんな状況でしょうか?何で持ち上げますか?高所作業車に載せますか?その時の人数は?機器はいつどんなタイミングで設置しますか?
その他にも建築の施工タイミングや仮設計画など様々な事情・状況によって同じ配管・ダクトを施工するにも施工の仕方は無限にあるのです。
その時々の状況をイメージして作図できているかが重要になってきますし、そのストーリーを基に現場の打ち合わせ、段取り、指示を行う事が現場監督の仕事となります。
つまり良い施工図はストーリーと一体となっており、指示書とも言えます。職人さんが図面を読み解くと同時に作業までの一連の流れがイメージできるもの。現場の実状と整合し、職人さんがもつ疑問が少ないものを目指しましょう。
- 施工図を描くためには入念な検討が必要
- 作業計画と施工図に整合性がある事が必要
次は少しだけ細かい例を紹介します。
施工業者の順番が明確
設備配管・ダクト・配線を施工するにあたり最も施工しやすい状況というのは「他の仕上げ物が無い状態」というのは誰が考えてもそうでしょう。
しかし現場はそうではありません。空調・衛生設備だけでも様々な職種が混在し同時進行で施工を行います。
誰が、いつ、どんな風に施工するか?良い施工図には効率化された作業手順が明確に現れます。
例えばダクトと配管が錯綜している時に、配管→ダクト→配管のような手順になってしまう納まりになっていると配管は2度手間です。配管×2→ダクトのように効率的な流れとなるような納まりを考えてみましょう。
- 配管が無駄に錯綜していない
- 各業者が多少前後できる調整しろがある
- 作業が単発的にならない
作業スペースが確保してある
せっかく綺麗に納まっていても実際に作業が出来ないと絵にかいた餅です。
配管をパイプレンチでねじ込むスペースはあるか?溶接を行うのに目視確認するスペースはあるか?保温を行うのに高所作業車が入り込むスペースはあるか?
引き渡し後のメンテナンスも同様です。どういったルートで機器やバルブ類に触れるのか?
全部を満足するような納まりは難しいでしょう。場面によって正解も変わります。工程に余裕があれば作業する人を都度都度入れ替えながらも出来ますが、余裕がなければお金がかかっても足場を作った方が良い場合もあります。
そうすると仮設足場をどの高さに設定するか?実際の作業状況を想定した図面になっているか?そういったことも考慮した納まりにすることが必要になってきます。
ここもストーリーと一体です。
- 実際に作業できないと意味がない
- 次の作業が出来るかどうかも考慮する
- 仮設の状況も考慮する
加工・搬入も考慮
機器類も当然ですが、角ダクト・加工管・ヘッダーなどの事前にある程度加工したものが効率よいサイズになっているか?現場に入れるトラックに積載できるか?仮設エレベーターに入るか?こういったことも考えなくてはいけません。
例えばエレベーターに乗せようと思ったら細かい寸切りになってしまうことも。すると現地での加工の手間が増えてしまいます。ですがクレーン等で早い段階で入れようとすれば細かくしなくて済みます。
他にも2人でないと持てないサイズよりも1人でも持てるサイズの方が運搬効率も良かったり・・・どこで加工物を区切るか、搬入をどう考えてるか?作業の効率は施工以外の場面でも考えなくてはいけません。
ここにも隠れたストーリーがあります。
- 無駄に刻むと現地加工が増えてしまう。
- 運搬効率のよいサイズを考える。
- 必要であれば搬入の前倒しも計画する
必要な情報を必要なだけ
情報が不足しているのは論外ですが、多すぎる情報も混乱を招きます。CADのシート・レイヤーを上手く使ってその業種ごとに必要な情報を描き分けましょう。
またその作業をしている時の状況によっても必要な情報は変わります。例えば
天井配管→通り芯やSLからの追い寸法
器具付け→仕上げ壁や床の仕上げからの追い寸法
となります。見る人・見る状況に合わせた情報を入れる事を心掛けましょう。
作業員のためのもの。だけではない。
施工図は作業を行うための図面だから職人さんが分かるように作ればいいんだ、という考えは私は反対です。
それ自体で施工管理も現場をチェックしますし、それが応援で今日来たばかりの人かもしれません。監理者も図面と現場の整合確認をとります。もしかしたら第3者も見るかもしれません。
風量や器具表まで入れる必要はありませんが、最低限所見の人でも苦労しないような整然とした施工図を心掛けましょう。
言葉でもいい
図面で会話と言いましたが、なにも全ての情報を図面で書かなくても良いです。
例えば配管が重なっている時に都度都度断面を描くのではなく、文字で「○○配管FL+3500、□□配管FL+3000」としても良いのです。それでも分かりにくいとなった場合には断面や詳細図を起こせばよいでしょう。
時間は限られていますので省略できるところはするという事も心掛けましょう。
まとめ
いかがでしたか?今回は品質的な部分や実務的な部分には触れませんでしたが、現場の効率ということを絡めて施工図作成のポイントを紹介しました。
施工図はその現場の職人さんにとっても施工管理にとっても大事なツールです。その精度とそれに至るまでの過程が現場の成功を左右します。
そしてそれをまとめるには多くの時間を費やします。事前の検討、特に現場に着任してから最初の数か月が本当に勝負です。一番の現場の山は最初の検討にあります。
「ただの納まり図」から「施工図」に進化させるために早い段階での追加人員・問題解決・作業計画を心掛けながら現場を進めるようにしていきたいですね。